スモールエス「CLIP STUDIO PAINT」をはじめよう!第5回
CLIP STUDIO PAINTをタブレットでつかってみよう【iPad編】
パワーアップして戻って来た「CLIP STUDIO PAINT」をはじめよう!では、2017年にリリースされた「CLIP STUDIO PAINT EX for iPad」を使って、タブレットによるデジタルイラストの描き方、楽しさを紹介していきます。
スマホでも絵を描けるアプリはありますが、もう少し大きな画面のタブレットはパソコンに近い感覚です。
さらに、直接画面にペンを使って描く方法は、プロのイラストレーターが数多く使用する液晶ペンタブレットのようでもあります。
持ち運ぶのに便利なタブレット版は、パソコンでCLIP STUDIO PAINTを使っている方も興味を持っていることと思います。そこで、初心者にはタブレットで描く面白さを、PC版を知る方にもタブレットならではの利点、タブレットによる違いなどをこれから4回に渡り紹介していきます。
デジタルスケッチブックのような感覚で、タブレットとCLIP STUDIO PAINTを使って、さらに楽しく作品づくりをしていきましょう。
第5回目ナビゲーター[すぴかさん]
今回は、イラストレーターすぴかさんによる、iPad版CLIP STUDIO PAINTを使った作品づくりの工程を解説します。
すぴか/イラストレーター、モデル。主にコミティアなどでイラスト集を発表している。
キュートな少女と動物、お菓子などを組み合わせた作品を描く。
今回のメイキングイラストも童話をモチーフに木の実や宝石など、物語のアイテムを散りばめた愛らしい作品となった。
タブレットで絵を描くために必要な道具は?
・iPad
動作環境…
OS: iOS11、iOS12。
2GB以上のメモリ必須。
※CLIP STUDIO PAINTの購入手続きにインターネット接続が必要。
・Apple Pencil(第一世代)
動作環境…
iPad Pro、iPad(6th)用。
※iPadに他のスタイラスペンを使う場合、Wacomの「Bamboo Sketch(iPad用)」「Bamboo Fineline3(iPad用)」などが使用できます。
■CLIP STUDIO PAINT EX for iPadを使用する方法は?
①iPadでApp Storeからアプリをインストールする。
※PC版(Win/Mac)のライセンスは、iPad版では使用できません。
②インストールしたCLIP STUDIO PAINTを起動する。
③App Storeが起動したら[CLIP STUDIO PAINT EX(月額)]を選択し、購入する。申し込みから6か月の間、無料で使用できる。
<はじめて起動したら…>
①[CLIP STUDIO PAINT]メニュー→[アプリの購入・グレード/支払いプラン]を選択する。
②プラン選択画面が表示されたら[EX月額プラン]を選択する。
※CLIP STUDIO PAINT EX月額プランのみ、6か月無料でアプリを使用できる。
タブレットで描くと、どんなことができるの?
■タテ・ヨコ好きな方向で描ける!
デジタルで描く場合、タテ位置の作品はどうしても小さく表示されてしまいます。
iPad版はタテ・ヨコどちらの表示も可能。タテ位置を大きな画面で描くことができます。
また、好きな場所にパレットの配置を移動することができます。
すぴか/私は右利きなのでキャンバスを右側に、パレットを左側にまとめて置いています。パレットが左側にあることで、間違えて右手で触ってしまうことも防げます。
■指が[スポイト]ツールになる!
ロングプレス(長押し)によって出るスポイトツール。
※[指とペンで異なるツールを使用]が選択されている場合に使用できる。
すぴか/指で触った真下ではなく、少し上側の目視できる場所の色が取られるところが、とてもわかりやすいです!
指が画材のひとつになるのがiPad版ならでは。
すぴかさんが使用するスポイト以外にも、消しゴムや自動選択、グラデーション、ズームも割当可能。
<パソコンでよく使う「修飾キー」はどこ?>
様々な動作に使う修飾キーですが、iPad版でもちゃんと画面の左右に収録されています。
画面の端から内側に指でスワイプすると表示されるので、必要な時にいつでも使うことができます。
※iPad版で使用できるエッジキーボードの操作方法について詳しくは以下で解説しています。
■スマホのように直感的な操作!
タブレットで絵を描くのは難しいのでは?という印象を持っている方もいるかもしれません。
しかし、PCよりも身近な、例えばスマートフォンで絵を描いたり写真を撮って加工する感覚での指による操作が可能で、気軽に使うことができます。
使用する指の本数など、ジェスチャーごとに使える機能を設定できる。
[コマンドバー]の左にある、指マークのボタンから[タッチジェスチャー設定]を選択すると設定を確認、変更できる。
<意識的に使うと便利なジェスチャーの一部>
二本指でタップ:取り消し
三本指でタップ:やり直し
<意図せず画面を触って線をひいてしまうのを防止したい!>
[シングルスワイプ・ロングプレス]→[指でツールを使用しない]を選択すると、ツールはペン使用時にのみ反応するようになります。
人物を描く
■すぴかさんが使うブラシ
すぴかさんは[Gペン]をメインに彩色する。ツールの種類は変えず[ツールプロパティ]パレットで[ブラシサイズ]や[不透明度]を変更して塗っていく。
すぴか/厚塗りと透明感のある塗りをどちらも作れる、中間のタッチで描きたくて使っています。ブラシはパキッとしつつ、不透明度で濃淡を調整できます。
■女の子を描く
①『ヘンゼルとグレーテル』をモチーフにした作品を描いていく。
[選択範囲]ツール→[投げなわ選択]サブツールで女の子を囲み、コピー&ペーストして別レイヤーとして複製する。描く部分のみラフから取り出した。
②[レイヤー]パレットで、工程①で取り出した女の子のレイヤーのみを表示する。ざっくりと選択してコピー&ペーストしたので、余分な線やアタリをさらに消す。このレイヤー上に描いていく。
③不透明度50〜70%のペンで瞳に水色、頬にオレンジを塗る。
少し透明なので重ねると色が少しずつ濃くなる。
すぴか/表情が大事なので、顔周りは完成近くまで進めます。
④不透明度50%のペンで髪を塗る。[スポイト]で肌色を取ったら前髪に入れて少し淡くする。
茶色のアタリ線の色を[スポイト]で取って、主線を引く。「半透明で塗る→線を引く」を繰り返す。
⑤主線とベースの黄土色の中間色で毛束ごとに流れを引く。
明るい色で毛束の端(赤で囲んだ場所)にスッと線を入れると、立体感が出る。
⑥新規レイヤーを作成し、合成モードを[オーバーレイ]に設定して彩色する。
髪の上側(赤で囲んだ場所)を鮮やかに塗る。塗られた色はオレンジに見えるが、実際は右上の紺色を乗せている。
【POINT】合成モード[オーバーレイ]の注意点
合成モード[オーバーレイ]で紺色を塗ると、髪や頬などの暖色がさらに鮮やかになる。
このとき注意したいのが、紺色の塗られた[オーバーレイ]のレイヤーの下地になるレイヤーの暖色が不透明に塗られていること。
下図・左は肌色の塗りが半透明だったので、紺色が浮き出てしまった。下のレイヤーの暖色を不透明に塗り直すと綺麗な赤みになった(下図・右)。
⑦元のレイヤーに戻って瞳の中を描き込む。ペンは不透明度75%なのでクッキリと色が乗っている。
⑧[オーバーレイ]で鮮やかに乗せた髪のツヤの上に新規レイヤーを作成し、細いブラシサイズのハイライトを短い線で入れる。
⑨ずきんを描く。少しずきんにはみ出していた前髪も塗りつぶす。少しずつ形を整えたら茶色で輪郭線を引く。
⑩ずきんに明暗をつける。ずきんの端に明るい色を置き、中間色を足しながら徐々に濃淡の差をなめらかにしていく。
⑪オレンジの髪のツヤを[スポイト]で取り、細かいタッチを足す。細かく描くところは画面をアップにして丁寧に線を引く。
⑫ずきんにシワを加える。
すぴか/シワは感覚的に描いています。遠目で見てバランスが良ければ合格です。
⑬まゆ毛を描く。前髪の上に薄茶色で描いたら、明るい色でまゆのラインを引いて形を際立たせる。
⑭ずきんに装飾を加えることにする。
アドリブでリボンを描く。白でリボンのシルエットを描いたら、その輪郭を淡い茶色で引く。
⑮主線に使う濃い茶色を[スポイト]で取り、胸の大きなリボンに塗る。
スポイトする色が指先の周りに表示されるので、色を選びやすい。
⑯スカートを塗る。ペンを動かしながら、まずはピンク色でシルエットを作る。形が決まったら濃い色を乗せたり濃淡を加える。
【POINT】絵の上にメモをする
すぴかさんは描きながら絵の上に、思いついたことや、忘れそうなことをメモするそうだ。
絵の上に乗せても、デジタル画材なら、あとから簡単に消すことができる。
⑰服の彩色で消えてしまった腕を描き足す。あわせて、腕にかけたカバンも描いた。
⑱茶色のリボンに濃淡をつける。画面を引きで確認しながら描き込み具合を調整する。
⑲ベストや袖口に装飾を加える。袖口のフリルは少しずつ色を重ねて厚みを表現する。
⑳ずきんの完成版。白ベースで赤いラインやフリルをあしらった可愛いデザインに。
■男の子を描く
①女の子の工程⑰まで進んだ状態で、今度は男の子を描く。
女の子同様、ラフの線と塗りを別レイヤーにまとめる。
②[ナビゲーター]パレットで画面を[左右反転]させて、描きやすい方向にする。[ナビゲーター]では画面の[上下反転]、回転表示もおこなえる。
③女の子同様に、表情を描き込む。閉じた目を描いた。頬に赤みを入れると優しい雰囲気がより増している。
④前髪の長さを決めたり、帽子の形を整える。中身を濃く塗り、輪郭線を引いた。
⑤帽子のハイライトやシワの濃淡を加える。直感的に凹凸をつけていく。
⑥髪のツヤを描く。女の子のオレンジのツヤを[スポイト]で取って乗せる。
▲女の子のときは合成モード[オーバーレイ]のレイヤー上にツヤを描いたが、塗られたオレンジ色をスポイトで取って塗ることで、[通常]のレイヤーでも再現できる。
⑦髪や帽子の端に水色を加えて明るくする。奥行きや色にメリハリがついた。
調整・修正をする
線画の工程がないため、ポーズや形を自由に変えていくすぴかさん。順序を決めずに描くことで、絵が出来ていく楽しさが伝わる。
■男の子の手のポーズ
ラフではティーカップを持っていたが、帽子のつばを軽く持つポーズに変更。伏し目がちの表情と合っている。
■女の子の脚のポーズ
脚のポーズを2パターン考えた。男の子が座るポーズなので、違いが出るように脚を伸ばしたポーズにする。
■衣装や装飾の色
男の子の蝶ネクタイは茶色で塗っていたが、女の子と並べたバランスを考えて、ピンクを乗せて色を変えた。
背景を描く
■背景のアタリ
➀キャラクターがだいたい決まったので背景にうつる。薄くアタリを敷いた上に濃い茶色でモチーフを描き入れる。
▲キャラよりも下層に背景のレイヤーを作ることで、キャラを避けずに背景を描くことができる。
➁背景の色も決めていく。男の子の下には椅子を描き加えた。(この椅子は完成ではマカロンになっている)
【POINT】色選びに迷った時のコツ
すぴか/私は色を考えるときに、カラーチャートだけを見ないで、画面に置いたときの印象を優先しています。
例えば、水色を塗るときに、水色らしい明るい色を塗るより、少しだけ水色が入ったグレーを塗る方が水色らしく見えるんです。
画面全体が暖色寄りなので、少し彩度が低かったり、淡い色の方が画面に馴染みます。
■マカロンを描く
➀新規レイヤー上にマカロンを描く。配置する場所とは関係なく、グリグリと淡いピンクのシルエットを描く。
▲キャラとは別のレイヤーなので重なりは気にせず、描きやすい位置や大きさで描く。
➁少し濃いピンクで、工程①の輪郭線とマカロン特有の凹凸(ピエと呼ばれる部分)をヒラヒラとしたラインで表現する。
➂濃淡をつける。ベースのピンクを基準に、濃さを少しずつ変えてマカロン全体をランダムに色づけする。
➃完成。ピエを一段明るくすることで、立体感が出た。
このマカロンを素材に登録して背景にいくつか配置する。
【POINT】画像を素材化する手順
[レイヤー]パレットで、素材にしたい画像のレイヤーを選択する。
[素材]パレットの左上からメニューを表示→[画像を素材として登録]で、登録画面が表示される。
[素材のプロパティ]ダイアログが表示されるで、ここで[素材名]を記入したり[素材保存先]を選択し、[OK]をクリックする。
これだけで簡単に絵が素材になる。ブラシの先端形状なども登録可能。
登録された素材は保存先のフォルダに追加される。
素材を使いたいときは、[素材]パレットから画面にドラッグ&ドロップすればOK。
すぴか/同じテーマでイラスト集を作るとき、登録した素材がデザインや装飾の役に立っています。
仕上げ
■画面のゴミを取る
➀[レイヤープロパティ]パレットの[境界効果]→[フチ]を使って描画部分にフチをつける。
▲一番下に濃い色のレイヤーを敷くと、ポツポツと白い点が出てくる。
➁白い点を消しゴムツールで消すとフチごと無くなる。小さなゴミや不要な線が明確になるので、画面の完成度も高くなる。
■質感をつける
➀タッチをつけたい範囲を選択する。新規レイヤーを作成し合成モードを[オーバーレイ]にする。[レイヤープロパティ]パレットで[境界効果]→[水彩境界]をつけ、[水彩]で紺色を部分的に置く。
➁独特のタッチがついた。顔は避け、色の濃い部分には多めにつけている。
イラストを共有しよう
[ファイル]メニュー→[画像を統合して書き出し]→ファイル形式(PNG)の順に選択して、書き出します。
[ファイル]メニュー→[ファイル操作・共有]で、書き出したファイルを選択して[共有]をクリックすると、メールやSNSのアイコンが表示される。
あとは保存先や共有先を選んで作品を気軽に発表してみましょう。
すぴかさんのタブレットのオススメポイント
元々はパソコンでCLIP STUDIO PAINTを使っていました。
仕事の合間や移動中にも作品を描き進めたくてiPadを購入したいと考えていたところ、ちょうどiPad版のCLIP STUDIO PAINTがリリースされたので、すぐに使いはじめました!
使っていたソフトなので難しいとは感じませんでしたし、パソコン作業を長時間すると腰痛や頭痛になったり…ということがありましたが、寝転がって描けたり、家以外でも少しの時間に進められるので解消されました。
両手を使って描けるところも気に入っています。
SS スモールエスとは
2005年に創刊されたイラスト雑誌。「メイキング&投稿マガジン」というキャッチコピーの通り、イラストの描き方の取材記事と、投稿イラストの掲載によって誌面がつくられている。デジタルとアナログの両方のイラストが楽しめる内容。Webから作品が投稿できる。
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