水彩・アナログ風質感のイラスト彩色解説

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sdt

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アナログ・デジタル併用でイラストを描いているsdtと申します。

ここでは、自作のブラシと素材を使って水彩・アナログ風質感のイラスト制作を解説します。

目指す画風

水彩、と言ってもそのスタイルは作家によって様々です。

淡い幻想的な風景画や静物を描かれる方、写真と見間違うほど写実性の高い作風の方、ポップな色づかいのキャラクター絵を描かれる方、絵本風、スケッチ、水をふんだんに使った流動感あるスタイルからじっくり塗り重ねる厚塗りまで、どれであっても水彩絵の具で描くなら水彩の作品です。

方向性が色々ありすぎる中で、どういう水彩風を描きたいのかまずヴィジョンをはっきりさせます。

 

ここでは普段私がアナログで描く作風が基盤になっています。自分が描いているタイプの水彩の絵の質感や雰囲気をデジタルで出したい。

普段私が描いているアナログの水彩イラストはこういう感じです。

キャラクターや人物+背景や小物ががっつりあって、画面は重めなイラストレーションです。余白の美やみずみずしい透明感とかではまったくないタイプ。

そしてCLIP STUDIO PAINTで水彩風に描いた絵がこちら。

完全にアナログというほどではないですがニュアンスはそれなりにアナログに近づけているのではないでしょうか。

今回はこの絵をどのように描いているかを解説します。

 

テキスト量が多めの記事なので、読むのがめんどくさい・雰囲気だけつかみたい方はインスタにタイムラプスを上げていますので、そちらをご覧ください。

 

 

水彩ブラシとは

「水彩ブラシ」というとき、概ね2種類に分かれると思っています。

(1)筆で描くように、タッチを出しながら塗り重ねていくタイプのブラシ

(2)実際の水彩描写をスキャンして作られた、スタンプのように使うニュアンス出しのためのブラシ

すべての「水彩ブラシ」がどちらかに分類できるわけではありませんが、自分がデジタル環境で絵を描く上ではこの指標で考えています。

今回使うブラシは概ね(2)です。ブラシ・筆を使って「塗る」というより、スタンプブラシで彩色しているという感じが近いです。やっていることの概念としてはステンシルとかに近いかもしれません。

(2)のように質感あるブラシでも、塗り重ねていくとただのベタ塗りになっていくので、塗り込まずにスタンプのように質感を画面に置いていく、という感じです。

 

 


下絵

では制作していきましょう。まずは下絵です。今回は主線をペン入れしないタイプの絵を描きます。下絵は鉛筆ツールで描いたものです。

階段と窓の写真を撮るのが趣味なので、背景は撮りためている写真を参照して描き起こしました。

照明のモデルはこちらの3D素材をベースにしています。

この絵は背景と人物、紙吹雪で分けてあります。

レイヤー構成

レイヤー構成について解説します。

基本的には下絵、色でフォルダ分けしてあります。

 

紙質感を出すために一番上に画用紙のレイヤーを置いています。この効果については色を塗り終わった後、最後のほうで解説します。

色を塗る準備です。

背景色フォルダは背景線画フォルダの上に置いて、乗算にしておきます。

背景に色を塗るレイヤーは「背景色」フォルダに入れていきます。

背景色塗り

「背景色」フォルダに、画像素材「質感グラデーション夕暮れ」を置き、レイヤーの不透明度を30ぐらいにします。この画像を一番下に敷くことで、全体的になんとなくうっすら色濃淡の質感がある、という感じになります。微妙な差ですが微妙な差の積み重ねの上に味があると信じましょう。

色味は上に色を重ねていったり調整したりでどんどん変わりますのであまり気にせずムラのある下地、という要素で置いています。

 

 

マスクの説明

「質感グラデーション夕暮れ」を選択した状態で、「レイヤーマスクを作成」ボタンを押すとマスクの表示が出ます。

マスクとは表示させる部分を調整できる機能なのですが、ここでは元画像を保持したまま、消しゴムをかけて、失敗しても最初の状態に戻せる、という感じのことができると思ってください。

マスクの部分を選択し、背景のベースを作っていきます。

マスクを選択した状態で、色質感が不要な部分を消していきます。

消しゴムツールで消します。

消した状態はこう。

 

 


水彩・アナログ的な表現

「水彩ブラシとは」の項目で説明した「(2)実際の水彩描写をスキャンして作られた、スタンプのように使うニュアンス出しのためのブラシ」を使って、水彩・アナログ的な質感表現をしていきます。

 

 

質感作例

絵を塗り始める前に、水彩・アナログっぽさがなにによってできているかの話をします。

 

デジタル塗りはフラットなベタ塗りが基礎になっていますが、アナログ水彩での色塗りは絵具一色で塗っても完全均質にはなりにくい、という特徴があり、それを再現する手っ取り早い方法が「色にむらっけがある」です。細かいことを言えば色々あると思いますがここでは「ベタ塗りじゃない」ぐらいの感覚でいきます。

 

以下の作例は自作の「ぶわ:水彩ブラシ」です。ブラシ自体に紙目の質感があるので、むらっけのあるアナログ的な色味が得られます。

塗り重ねるとただのベタ塗りになっていくので、1枚のレイヤーでじっくり塗り重ねるのには向いていません。スタンプ的な描画で効果を発揮するブラシです。

基本の塗り方はざーっと塗って余分なところを消す、です。

ざーっと塗って

消す。

ここからは複雑な色味を作るサンプルです。

レイヤーを一枚重ねて、赤と黄色で同じように塗っています。

とりあえず全体を塗りました。服の部分は青/赤黄でレイヤーを分けましたが、髪の部分は1枚のレイヤー上で色を置いています。

ここからレイヤーの効果で服の色味を変えます。

 

服の部分は青を塗ったレイヤーと、赤と黄色で塗ったレイヤー2枚でできています。

赤と黄色で塗ったレイヤーのほうの、レイヤー設定を変えると色味が色々変わりますので、自分の色彩感覚ではない変化を持たせたい時などは効果的です。

1枚のレイヤー上で色を混ぜるのではなく、一色につき1レイヤー使って重ねて複雑な色味を作ります。レイヤーを分けることで、濃度を変えたりレイヤー設定を変えられるので、色の重なりの具合・質感を変えられるからです。

 

ここでは派手めな色味で効果を示していますが、実際の作画ではもっと渋めでちょっとしたニュアンス足しぐらいの程度で使っていることが多いです。

また、グラデーションマップを使って分離色的な効果をつけることもできます。

ムラのあるアナログ質感のブラシ描画は濃淡が豊富にあるため、レイヤーの設定・色調補正などの加工によっていろんな色味を作ることができるので、色々試してみると面白いと思います。

上記画像では以下のグラデーションマップを使用しました。

下記は自作ブラシでどういった効果が出せるのか試していた時のサンプルです。水彩ブラシ描画+グラデーションマップ・レイヤー効果でいろんな色・質感が出ます。

今回は自作のブラシを使っていますが、CLIP STUDIO PAINTはPhotoshopのブラシも使えるため、AdobeユーザーであればAdobe公式で配布されている水彩・アナログ風のブラシや、各種の素材サイトで販売されているPhotoshop向け水彩ブラシ等をCLIP STUDIO PAINTに入れて使うこともできます。先人の蓄積が膨大にあるので、お好みのものを探してみるのも楽しいと思います。

https://www.adobe.com/jp/products/photoshop/brushes.html


色塗りに使用したブラシ

今回使う水彩ブラシは下記の4種類です。これで塗っていきます。

「ふわぬり」は質感をスタンプするブラシ先端を若干塗り用に寄せたブラシです。ふわふわのエッジが出るしっとりめの描画ができます。

ブラシサイズを大きくして質感を出す塗りに、ブラシサイズを小さくして細かく塗る・描く系の塗りに使います。私は塗っている最中にブラシ設定をどんどん変えるので、このブラシの初期設定はたまたま素材の登録時にその数値だった、ぐらいに思ってください。

 

以下の「ぼあ」「ぶわ」「まる」はスタンプっぽく使うブラシです。


塗り工程

基本の塗り方は、

 

1)ブラシサイズ大き目で全体をスタンプを押すように塗る

2)余分なところを消しゴムやマスクで消す

 

です。

色はどうせ後で調整するので気分でどんどん埋めていきます。

塗った後に「色を変えたいな」ということはよくあります。アナログと違って一発で決める必要はないので、色調補正レイヤー等をはさみながら好みに近づけていけばよいと思います。

▼濃くしたいところ、明るくしたいところなどを考えながらレイヤーで色を重ねていきます。

▼右側の黒い扉枠や窓の外を描画しました。

薄い色で塗って、レイヤーを複製し、乗算してレイヤーの濃度を調整したり、ブラシの色を透明にして削ったりして濃さ・濃淡を整えていきます。

▼階段のてすりや柱の模様は「ぼあ」「まる」「ぶわ」ブラシを使って描画しています。模様っぽく描画し、ブラシの描画色を透明にして削り、というかんじで何枚か適当に描画したレイヤーを重ね、レイヤーを乗算したりオーバーレイしたり結合したり色補正したりグラデーションマップをかけて、石の模様っぽくなったなというところでやめています。

「質感作例」のところでやったような感じですね。

階段の段々のところの雑な質感も「ぼあ」ブラシです。

▼明るくしたい部分用にそれぞれレイヤーを作り、「ぶわ」ブラシか「まる」ブラシで白をぶわーっと塗って、削ったり濃度調整したりレイヤーの設定を発光にしたりハイライトを入れたりしています。

▼影や汚しをいれました。これは「ふわぬり」ブラシで塗っています。

 

わかりにくいと思いますが、空間の真ん中あたりに白でぶわっと空気を描いています。これは「ぶわ」ブラシ。

 

 

カゲ部分はレイヤーの設定で水彩境界風のフチをつけています。

レイヤープロパティの「効果」項目にある○ボタンを押すと、描画されているものにフチがつきます。

フチのつきかたには「フチ」と「水彩境界」が選べ、水彩境界を選ぶとフチの具合を決めるパラメーターが表示されるので、好きな感じに設定できます。

今回の絵だと画面右端にある柱の部分のカゲも、レイヤー効果で水彩境界を入れています。カゲ自体はブラシでザーッと塗っただけのものです。

とりあえずこれで背景の彩色は終わりです。


人物色塗り

レイヤー構成

続いて人物を塗っていきます。

レイヤー構成を振り返っておきましょう。

人物線画フォルダの上に色塗り用の「人物色」フォルダを置き、色塗りレイヤーはこのフォルダに入れていきます。フォルダの設定は背景の時と同じく乗算です。

「はね」は男性の方の色ぬりレイヤーを入れておくフォルダ、「みみ」は女性の方の色塗りレイヤーを入れておくフォルダです。

 

「人物色」フォルダには「下のレイヤーでクリッピング」の設定もしておきます。

「人物色」フォルダを選択した状態で下記の画像の赤い四角枠で示しているボタンを押すと、一つ下にある「人物線画」フォルダに入っている画像の部分にだけ色が乗る状態になります。「下のレイヤーでクリッピング」状態になっているフォルダやレイヤーは左側に赤い縦線がついています。

完成状態の画像で見比べてみましょう。「下のレイヤーでクリッピング」をオフにすると、人物部分の色塗りのはみ出してる部分も表示されているのがわかると思います。

私の塗り方は、線画の内側をはみ出さないように丁寧に塗るのではなくて、「全体に塗って余計なところを消す」なので、「下のレイヤーでクリッピング」をオンにしておくことで、はみ出すことをあまり気にせず色を塗っていけます。

 

服や顔など細かくパーツ分け・クリッピングしてもいいのですが、パーツ分けする時間と、バーッと塗った後はみ出したところを消しゴムで消すのはほぼ同じ時間だなと思うので、人物のアウトライン外だけマスクがかかればいいや、と思ってこのような構成になっています。


肌の塗り

「人物色」フォルダの中の「みみ」(女性の方)フォルダに「肌」フォルダを作りました。

肌の塗りは肌フォルダにレイヤーを作ります。

レイヤーの一枚目は青で適当にポンポン色をのせます。

レイヤー二枚目は黄色です。同じく適当に色を乗せていきます。

レイヤー三枚目は赤系です。肌全体にポンポンと色を置いていきます。

肌フォルダにレイヤーマスクをかけ、服にはみ出している部分を消しゴムで消します。フォルダにマスクをかけることで、青黄赤のレイヤーすべてをいっぺんに編集できます。

レイヤーの不透明度を操作して肌の色味を整えます。

ここでは青の色を乗せたレイヤーの不透明度を40ぐらいに変更しました。

この調子で他の部分も塗っていきます。

繰り返しますが、ブラシで色を適当に置いて、はみ出したところは消しゴムで消す、が基本動作です。ムラや濃淡を出したいところなどは、水彩ブラシの描画色を透明にして塗ってある色を適当に削ります。

説明し忘れていましたが、余計な部分を「消しゴムで消す」際に使っているツールはだいたい「投げなわ消しゴム」です。囲ってすぱっと消せるので楽。


塗りのレイヤー構成gifと説明

レイヤーの構成画像を貼ってもピンとこないだろうと思うので、順番にレイヤーを表示させていくgifを作りました。gifなので色味は少し変わってしまっていますが参考まで。

ズボンとカバンは「ふわぬり」ブラシで塗っていますが他は「ぼあ」と「まる」ブラシで埋めています。色をフィーリングで置いていって、「色が薄いな?」と思ったときは塗り重ねるのではなく、レイヤーを複製して乗算設定にし、レイヤー濃度を調節しています。

もう一人の人物のほうもレイヤーを順番に表示していくgifにしました。

塗りのレイヤーはこういう感じでわかれています。ズボンのあたりは色調補正レイヤーを挟んでいるので色が何回か変わります。

羽の部分はタッチを出して描き込んでいるのではなく、「ぼあ」ブラシでグレーをポンと置いて、ブラシの描画色を透明に変更してグレー部分をちょっと削った感じです。なので羽の質感は2ストロークぐらいの描画です。

だいたいどこもブラシのサイズを大きめにして質感をポンポンスタンプしている感じです。塗る感じだったのは靴下と靴裏あたり、細かく描き込む必要のあったところは籠のところと三角帽子の白ラインぐらい。

シャツの色と、カゲのレイヤーには水彩境界のフチ設定がオンになっています。

終盤で全体にかかるカゲ部分は「ふわぬり」ブラシで全体を埋めるように色を置いて、レイヤーを乗算にし、明るい部分を投げなわ消しゴムで削ってこの形になっています。

背景、人物の色を乗せ終わり、紙吹雪にも色をつけ、ハイライトや細かい部分の描き込みまで終わりました。細かく描きたい部分は鉛筆ツールも使っています。

 

これで彩色は概ね終了です。

むらっけのある質感のブラシで色をのせていっているため、シャープさが抑えられ、やわらかめな印象の絵になっていると思います。


アナログの質感付与

紙の質感を入れる

ここからもう少し、「アナログっぽさ」を強調します。最初のほうで説明をスキップした「画用紙」の部分です。

「画用紙」素材を用意します。ここではCLIP STUDIO PAINTの公式素材を使いましたが、紙の質感素材はいろんな方が作っているのでお好きなものを探してお使いください。

 

「画用紙」素材をレイヤーの一番上に置き、レイヤープロパティにある「質感合成」をONにします。

拡大してみるとこんな感じ。

ざらっとした質感が乗ります。

この紙質感ですが、要は全体にノイズをかけているようなものなので、画用紙画像の代わりにノイズの画像や砂目トーンなどで差し替えても「ざらっとしたアナログみたいな質感」になります。ざらつき加減も好みの問題なので色々試してみてください。紙の質感に限らず、ざらついたテクスチャー等の画像などでもアナログっぽさを感じる面白い効果になると思います。

 

イラストをweb用に書き出すにしても印刷するにしても、最終的には描画サイズからかなり縮小した状態で絵を見ることになると思います。

(書き忘れていましたが、キャンバスの設定はA4 350dpiで描いています)

質感の違いは、レイヤーの設定にもよりますが、縮小した状態では「言われてみればなんとなくニュアンスが違うな~」ぐらいの微妙な差になることがほとんどです。webでも大きなサイズの画像で拡大して細部まで見るということはそこまで多くないと思うので。そうだとしても、紙質感によって若干印象が変わります。微妙な差異の積み重ねが味になるんだと唱えましょう。

上記の砂目トーンは質感合成ではなくレイヤーの不透明度27、オーバーレイ設定です。粗目の砂目トーンを使っているので、細かい砂目だとまたちょっと違ってくると思います。素材は下記を使わせていただきました。

絵によるかもしれませんが、RGBノイズをかけたときの質感はウォーターフォードの細目に近いって勝手に思ってます。

アナログの水彩を描く場合、紙と筆と絵を見るときの光源の特性により描画の中に濃淡や色味にばらつきが出たり、完全フラット一色になりにくい、つまりさまざまなゆらぎがアナログ感の要素だと思います。

水彩の技巧が優れた人だとめっちゃ美しくフラットな塗りやゆらがないグラデーションとかも作れたりするんですが、デジタル彩色ではフラットがデフォルトなので逆にゆらぎに良さを見出していくのは自然な流れだと思います。

 

ノイズを付与して「アナログ感が出る」のは、ゆらぎの幅が少し増えるからなんだろうなと思います。


むらっけを出す色調整

描画が終わりましたので、グラデーションマップを使って好みの色調に調整していきます。

 

レイヤーの一番上にグラデーションマップレイヤーを追加します。

メニューからレイヤー→新規色調補正レイヤー→グラデーションマップを選択します。

今回はふんわり雰囲気グラデーションを使いました。

グラデーションマップレイヤーを調整します。

グラデーションマップレイヤーをオーバーレイに設定し、不透明度を30に変更。

グラデーションマップレイヤーのマスクを選択。

「ぶわ」ブラシの描画色を透明にし、マスクを適当に削って色ニュアンスの濃淡を調整します。


完成

アナログ水彩っぽい雰囲気に近づけられたのではないでしょうか。

 

なにをもって水彩風・アナログ風とするかは人それぞれ好みの問題だと思いますが、一例としてイラストのメイキングを書いてみました。

 

皆様のお絵描きのなんらかの足しになれば幸いです。

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