Hurray!インタビュー |「数分間のエールを」
劇中の主人公によるMV制作シーンで「CLIP STUDIO PAINT」が登場する他、本編の制作にも「CLIP STUDIO PAINT」を活用いただきました、映画「数分間のエールを」が2024年6月14日(金)に公開されました。
公開を記念して、アニメーション制作を手掛けた映像制作チーム「Hurray!」のぽぷりかさん、おはじきさん、まごつきさんの3名に「数分間のエールを」の見どころやこだわりのシーンなど、制作秘話をお伺いしました。
ここだけの貴重なインタビューをぜひお楽しみください。
「Hurray!」について
ぽぷりか、おはじき、まごつきの3名からなる映像制作チーム。ぽぷりかはディレクションから実データ制作までの全般、おはじきは2D,3Dアニメーションをメインに、まごつきはキャラクター、ビジュアル周りをメインにそれぞれ担当している。
ヨルシカのMV(「雨とカプチーノ」「だから僕は音楽を辞めた」)を手掛け一躍有名となり、その後もTVアニメ『可愛いだけじゃない式守さん』ED映像や、「Shiny Racers」(『LoveLive! Sunshine!!』)Special MV、クリーム玄米ブランのCMなど、新感覚の映像&音楽表現で話題を集める。
「Hurray=激励・賞賛・喜び」をテーマにしたメッセージ性のある映像作りを信条としており、本作が初の劇場アニメとなる。
Hurray! インタビュー
―― チームでの制作フロー・役割分担について教えてください
ぽぷりか まず、僕がディレクター業務を担当しています。また、テクニカルの部分のリードも担当しています。
まごつきはコンセプトアートやアートディレクションをメインに、おはじきはあるゆる縁の下の力持ち的な存在でした。アニメーションもエフェクトも、とにかく何でもやってもらいました。
制作の大まかな流れとしては、私がVコンテを書き終わった段階で、まごつきが各シーンのコンセプトアートを進めます。それと並行し、私とおはじきでモーションキャプチャーを収録しました。本作のモーションキャプチャーのほとんどは僕とおはじきの2人だけで、おはじきの家で収録しています。
おはじき 日常演技は僕らだけで収録しましたが、ライブのシーンは楽器を弾けるプロのアクターさんにお願いしていますね。
ぽぷりか コンセプトアートが固まってきた段階でまごつきとおはじきで、背景のラフモデルを作っていきました。コンセプトアートを元に3Dを作っていき、一定のクオリティまで進んだらまごつきがレタッチを行います。レタッチを参考に、またそれを3Dに反映し、もし行き詰まったらレタッチをもらう。という繰り返しですね。
普段のミュージックビデオ(MV)と同じ作り方ですが、このような最終的な絵作りやクオリティアップは3人で作り上げています。おはじきに背景のクオリティアップを、まごつきにキャラクターの色味とライティングの調整をしてもらい、そこから最終的なコンポジットとクオリティアップを僕が行います。
大半のカットを3人で行ったため、初期に作ったカットと後半のカットではクオリティにどうしても差が出てしまい、60分の物量の中でどこで区切りをつけるかは相当悩みました。
まごつき レタッチ作業は、スクリーンショットの上からCLIP STUDIO PAINTで加筆しています。この時点では絵としての見ばえ重視で、3Dでの表現方法はあまり考えていません。
ぽぷりか どう落とし込むかは僕の仕事だね。雨の路上ライブ、特に傘の表現などはまごつきが描いてきたレタッチがすごく筆致のあるアナログな雰囲気のもので難しかったのですが、3Dへの変換が上手くいったシーンになりました。
2D的なレタッチを3Dに落とし込むときはその都度、技術的にできるしやった方がいい、できるけどやらなくてもいい、できないなら別の方法を模索したい、難しいけどやったら格好よくなると思うから時間を使って開発をしようなど、コストとクオリティと目指したい絵作りを天秤にかけて判断しています。
ただ、そんな開発に時間を使ってしまうと実作業が進まなかったりもしていて、そういったところを補完する役割もおはじきが担ってくれました。
まごつき 自分がレタッチしていない絵もおはじきが良くしてくれていることもありました。
おはじき まごつきが作ったコンセプトアートから方向性をくみ取り、クオリティをそろえていくようなイメージです。
ぽぷりか お互いのことをよく知っているこの3人だからこそできる作り方だね。
―― コンセプトアートでは作風をどのように決めていかれましたか?
まごつき 自分たちが今まで作ってきたMVのような、色を極端に絞ったりしたスタイルは、60分の映画として観るときに疲れてしまいそうなので避けよう、というのがまずありましたね。そこの方向性をぽぷりかとそろえた段階でコンセプトアートの制作に着手していきました。
ぽぷりか 奇抜すぎないけどちょっとだけ変わって見えるようなね。
まごつき 今回のアートの特徴はシルエット付近の、プリズムのように色が重なったリムライト表現です。ただ色が豊かなだけでなく、目線誘導もできるこの表現方法を思い付いたときに、「イケる!」と感じました。
ヘッドフォンやギターなど光沢感のあるアイテムがアップになることが多いので、キラッとした表現にアクセントを付けられるところが気に入っています。
―― CLIP STUDIO PAINTはどのように活用されていましたか?
まごつき 使用しているCLIP STUDIO PAINTの機能は非常にシンプルで、ひたすらブラシで描いています。乗算や覆い焼きのようなレイヤー効果はあまり使用せず、通常レイヤーで色を指定して描いていきました。
CLIP STUDIO ASSETでブラシをダウンロードして制作に取り入れることはよくあります。
その他にも「描く」事が必要になる場面では基本CLIP STUDIO PAINTで作業していました。
▼「数分間のエールを」の制作で使用したブラシ例:インク切れ筆ペン(作者:むつごろう さん)
―― お三方それぞれのモノづくりのきっかけを教えてください
まごつき 結論からいうと、きっかけらしいきっかけはないんです。
絵を描く方あるあるかもしれませんが、物心つく前から絵を描いていました。仕事にしたいと考え始めたのは小学1年生くらいのころです。
おはじき きっかけと言われると僕も薄くなりますが、まごつきと同じで幼少期より絵を描くことが好きでした。何故かはわからないのですが、当時から見ていたアニメや特撮モノなど、人間が作っているということに小学一年生あたりでは気が付いていなくて(笑)。
人が作っていることに気が付いてからは、自分も絵を描く仕事に就きたいと意識するようになりました。
ぽぷりか 僕は二人とは少し違って、絵を描くことは好きではありましたが、自分には才能がないから仕事には出来ないと諦めていました。
高校生くらいのときにニコニコ動画であるMVと出会い、一度だけそういう世界に挑戦してみようと思って美大への進学を決めました。
―― 3人でのモノづくりのきっかけはいかがでしょうか?
ぽぷりか 3人の出会いは大学ですね。まずぽぷりかとおはじきが同級生として出会って、2つ下のまごつきとは僕の卒業制作の手伝いで参加してもらったことがきっかけです。その頃は3人での制作はあまりしておらず、就職先も3人バラバラでした。
僕がMV制作の副業をしていたところに手伝ってもらう形で現在の3人チームの体制になっていきました。
おはじき その頃から、就職はしたものの僕はいつかは3人でまた活動できたらと思っていました。
ぽぷりか そうなの!?自分には自分の人生がある、って感じかと思ってた!(笑)
まごつき わたしは確かにそう言ってたよね(笑)
―― デジタルツールが普及してきているこれからの少人数や個人制作アニメへの可能性や印象、期待があれば教えていただけますか?
ぽぷりか 総合的にツールの普及はアニメーションの間口を広げる意味でいいことだと思いつつ、難しい部分もあると感じています。
制作が簡単になって来ている反面、注目されるためには、技術、アート、セルフプロデュースまですべてを自分自身でやらなくてはいけなくなってきている。それが全部出来ないと見つけてもらえないとしたら、それは良いことなのかなぁ、難しいですね。
おはじき 僕は単純に、自分が学生のころは複数のツールをまたいで苦労して作っていた内容が今はタブレットがあってCLIP STUDIO PAINTに課金をしたらそれだけでプロと同じ環境でアニメーション制作が完結できるのは羨ましいなと思ってました!
まごつき SNSを見ていてもすごく絵の上手い学生さんがたくさんいるので、目が肥えているのかなぁと感じますね。ツールの発展にともなって、今は井の中の蛙でいられる時間は短くなっているのかもしれません。
―― 映画『数分間のエールを』の見どころのご紹介や、モノ作りを志す方へのエールをお願いします!
ぽぷりか モノづくりの楽しさを表現するために、創作シーンのテンポ感や没頭感にはこだわって作っています。主人公の朝屋彼方の制作シーンは数日間の進捗を圧縮して描いており、セリフのテンポも含めて試行錯誤しました。
また、実際の作業風景ではなく、頭の中の制作風景を表現をすることで、実際に創作している時の思考とひらめきのワクワク感を伝えられていたら嬉しいです。
まごつき 現実世界ではないシーンなので、ビジュアル的にも少し遊びを入れています。
MVを作っているシーンなので、音楽と彼方くんを繋ぐアイテムとして彼方くんの付けているケーブルがイエローに発光していたり、他のシーンではやっていないことも盛り込んでいるのでそういう部分も楽しんで見ていただけたらと思います。
まごつき わたしの一押しのシーンは作中に登場するMVの背景に登場する金色の旗です。幼少期の「特別すぎて取っておいたけど、時間が経って結局何にも使わないまま捨ててしまった金色の折り紙」から着想を得ています。
そんな後悔のエピソードから生まれたモチーフに込めた想いは、なにかに憧れたりワクワクする自分の気持ちはその瞬間が一番価値がある、だから躊躇わずに挑戦してみてほしいというエールです。どんなシーンか、ぜひ劇場で確かめてみてください!
おはじき 僕は自分のことを凡人だと思っていて、トノ(外崎大輔)にすごく共感するところがあります。そんな自分が今こうやってモノ作りを続けられているのは、Hurray!の二人の仲間がいるからです。
今はSNSの普及で、世界中の上手い人と比べられたり、作品を公開することは怖いと感じることもあるかもしれませんが、僕は三人だったら全然怖くない。
一人で作品を作ることが大変だと感じたら、シンパシーの合う仲間を見つけて一緒に作ることも考えたりして、モノづくりを続けて欲しいと思います。
ぽぷりか MVクリエイターが作る映画はきっと普段と違う映像体験になっていると思います、ぜひ劇場でご覧ください!
『数分間のエールを』について
この時代にモノづくりを志す全ての人へ
MV(ミュージックビデオ)の制作に没頭する男子高校生・朝屋彼方は、ある日目にしたストリートライブに感動し、その曲のMVを作りたいと強く思う。しかし、歌っていたのは音楽の道を諦めた女性教師・織重夕だった......。
二人の出会いを軸にモノづくりの楽しさや苦しみを瑞々しく描いた本作は、脚本を『ラブライブ!』『宇宙よりも遠い場所』の花田十輝が担当、監督・演出からキャラクターデザインなど映像のほぼすべてを“ぽぷりか”“おはじき”“まごつき”で構成される映像制作チーム「Hurray!(フレイ)」の3名で作り上げた。
ヨルシカのMVやTVアニメ『可愛いだけじゃない式守さん』のED映像を手掛けるなど、今最も注目を集めるチームが満を持して送り出す初の劇場アニメーションは、フリー3DCGソフト「Blender」をメインツールとして制作が行われており、その独特で繊細な画作りにも注目が集まる。
劇中で織重夕が歌う楽曲の制作を担当しているのはボカロPとしても活躍するVIVI、歌唱はSpotifyが活躍を期待する次世代アーティスト「RADAR:Early Noise 2022」にも選ばれたシンガーソングライターの菅原圭が担当しており、中性的でエモーショナルな歌声で織重夕が楽曲に込めた想いを歌い上げる。
観た人達に前を向いて笑ってもらいたい。
どうかあなたに、 ”数分間のエールを”
公式サイト:https://yell-movie2024.com/
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