写真を参考にパース定規を設定して背景を描く
自分で撮影した写真の画像を使って背景を描く手法を紹介します。
背景をもとにパース定規を設定して描画します。
講座内ではパース定規を使用します。パース定規の使い方については以下の講座をご覧ください。
[1]写真から背景を起こす
■1.撮影した画像を読み込む
街並みなどをデジカメやスマホのカメラで撮影した画像を用意します。[3]背景用写真を撮影するコツで紹介していますので参考にしてください。
(1)CLIP STUDIO PAINTを起動して原稿用紙(キャンバス)を作成したら、[ファイル]メニュー→[読み込み]→[画像]から撮影した背景画像を読み込みます。
(2)画像が原稿用紙に読み込まれたら、[レイヤー]パレットで読み込まれた画像を確認します。
[読み込み]から読み込んだ画像は[画像素材レイヤー]として読み込まれています。
画像の隅に表示されたハンドルを操作して大きさや向きを変更します。
(3)線画を引きやすいように、写真のレイヤーを[下描き]モードに、この例では不透明度を50%に下げました。
読み込んだ写真は[下描き]モードに設定しておくと、塗りつぶしや選択範囲を作成するときに写真を参照しないで作業できるため便利です。
■2.写真を参考にパース定規を設定する
実際にパース定規を設定して描画します。
現実の風景では向きの違う建物があり、パース定規が複数必要な場合もあります。
・消失点を共有する建物をさがす
実際に街並みの画像を使ってパース定規を設定してみましょう。
はじめに、[パース定規]ツールの[ツールプロパティ]→[編集レイヤーに作成]をOFFにしてすべてのレイヤーでパース定規が有効になるようにしておきます。
(1)画像のなかで印象的な建物を選び、建物の左右の壁から横方向に伸びる線を「2本」探し出します。
できるだけ離れた位置の2本を使うと設定しやすくなります。
(2)[パース定規]ツールでガイド線の角度を建物の「辺」に合わせてドラッグして2本のガイド線を設定します。
ここでガイド線の角度がずれていても構いません。
[パース定規]のガイド線を2本設定すると消失点が作成されます。
(3)ガイド線と建物の「辺」の角度がずれていると感じたらパース定規のガイド線上にある[+]マークをドラッグしてガイド線の角度を調整します。この操作では、消失点の位置が移動してガイド線の角度を変化させます。
右側の消失点も同様に設定します。
(4)いったんガイド線を設定したら、パース定規のガイド線上にある[+]マークのハンドルをドラッグしてガイド線の角度を微調整します。
(5)次に、ガイド線の角度が合っているかを確認します。
消失点を移動させないようにパース定規のガイド線上にある[〇]マークのハンドルを操作します。
[〇]マークのハンドルのドラッグでは、消失点は移動しません。
パース定規のガイド線上にある[〇]マークをドラッグしてガイド線を回転させ、同じ向きの建物の様々な箇所の辺と角度が合致するか確認しておきます。
※ただし、カメラのレンズには「歪み」がつきものなので、写真が歪んでいることもあります。ガイドと角度を合わせるときはほどほどに。
(6)同様の作業で左右と縦方向、3つの消失点を設定します。
ガイド線を画像のいろいろな場所に移動してどの建物で使える消失点なのかを確認しながら設定します。
■3.向きの違う建物のパース定規を設定する
[〇]マークをドラッグしてガイド線を移動しても明らかに他のものと角度の合わない建物が出てくることがあります。
この場合は、そもそも建物の向きが違うので、別のパース定規を作成します。
ただし、建物を描く場合、縦方向の消失点は共有できるため、既に作成したパース定規を調整して用意すると効率的です。
[レイヤー]メニューの[レイヤーの複製]などを使ってパース定規のレイヤーを複製します。
複製したレイヤーのパース定規のガイド線を調整して設定します。縦方向の消失点の位置は変えずに共有します。
複製したパース定規の消失点を設定する場合、定規を[オブジェクト]ツールで選択した状態(定規上にハンドルが表示されている状態)のままキャンバス上を右クリックしてメニューを表示、[アイレベルを固定]をONにしておきます。
【POINT】
パース定規の[〇]や[+]のハンドルは[オブジェクト]ツールで定規をクリックすると表示されます。
今回の様に画像素材レイヤーの画像を表示している場合は画像が選択されてしまうことがあり操作がスムーズにできなくなる恐れもあります。
そんな場合[レイヤーをロック]で写真のレイヤーをロックしておくといいでしょう。
■4.パース定規に沿った線のペン入れ
複数のパース定規を作成したら、線入れします。
パース定規のレイヤーを切り換え、定規のスナップのON/OFFに注意しながら作業しましょう。
この例では大まかなラインと細かな描写でレイヤーを別に用意しています。
ひたすら画像を参考に描画します。パース定規では合わない角度の線はまだ描かなくて大丈夫です。背景描画になれてきたら写真画像にとらわれすぎず、窓の位置やデザインなど、自由に変えてもいいでしょう。
影になる部分や明るい場所など線のタッチを考えて描画します。
・立体感のある描画について
例えば窓枠はわずかに出っ張っていて、正確に描画する場合はすべて立体的に描く必要があります。
しかし、今回の様な遠くから撮影した街並みなどでは小さなパーツに窓枠まで正確に描いても、線が多くなりすぎるだけでバランスが悪くなることもあります。
線を単純化してより見やすい画面にまとめておきます。
細かな部分まで窓枠の構造をすべて線画に反映させてしまうと線が多すぎて細かな部分が潰れてしまうことがあります。
PC画面で拡大して描画するときは実寸でどれくらいに見えているのかを意識することも大切です。
小さな部分の描画では、上図のように構造をすべて線で描くのではなく影などを利用して単純化します。
今回のような形の窓であれば縦に太めの線を入れてしまってもいいでしょう。
この時、壁などの線画と窓枠の線画を別のレイヤーにしておくと作業がしやすくなります。
黒く太く描いた線の上に白インク(または透明インク)で線を重ねます。
窓枠の太さや奥行きを考えながら線の太さを調整して立体感を黒い線だけで表現します。
赤い線の壁の線画と窓枠の線画のレイヤーを分けたのはこれらの作業を行い易くするためです。
【POINT】
今回は建物に合わせてパース定規を複数作成しますが、わずかなズレであれば写真を無視して描画して、構図を単純化することもできます。
ただし、パースを単純化した場合、複雑な描画を行うには慣れが必要ともなります。やりやすい方法で描画してみましょう。
■5.定規の組み合わせと仕上げ
設定したパース定規では描けない角度の線画や図形を描画する方法と、定規を利用しない自然物の樹木やトーンの仕上げを紹介します。
・パース定規の消失点を追加する
パース定規が描けるのは立方体直方体の様な「箱」の辺と同じ角度の線だけです。建物の屋根など、赤い線部分はこのパース定規では描けません。
[パース定規]ツールの[ツールプロパティ]→[処理内容]の項目を[消失点の追加]に変更し、パース定規の作成されているレイヤーを選んだ状態で消失点を設定すれば消失点を更に増やすことができます。
例えば、建物の屋根などの傾斜のためにパース定規で消失点を増やした場合、スナップする消失点が増えるので、描画の時にスナップする方向を選ぶのが難しくなることもあります。
消失点を増やしても作業が難しい場合は、新しくパース定規を作成した方がいいでしょう。
<平行線定規を利用する>
元の写真画像がある場合は、屋根の傾斜部分の直線の本数が少ないので、こういった場合は平行線定規を使うと便利です。
[特殊定規]ツールの[ツールプロパティ]→[特殊定規]で[平行線]を選択。 線の方向をドラッグ&ドロップで指定します。
定規を作成する際[編集レイヤーに作成]をOFFにしておくとすべてのレイヤーで平行線定規を有効にできます。
また、平行線定規は設定した角度の直線しか描けない定規ですが、必要な線を描き終わったら他の箇所もこの平行線定規の角度を変えて描きます。
[オブジェクト]ツールを選択して[ツールプロパティ]の[透明箇所の操作]→[平行線定規の方向指定]をONに設定しておきます。
必要な箇所で平行線定規の角度を変えながら描画を行います。
描画系ツールを使用中に[Ctrl]キーを押している間だけ[オブジェクト]ツールに切り替わって平行線定規の角度をドラッグで変更できます。
平行線定規の角度を設定できたら[Ctrl]を離してペンツールで描画→また[Ctrl]キーを押しながら定規の角度を変更→キーを離して描画…と繰り返して定規の角度を変えながら様々な角度の直線を描きます。
パース定規と平行線定規を組み合わせて建物部分を描画します。
<同心円定規を利用する>
同心円定規は同心円を描くための定規です。背景などの描画の際は色々な使い道があります。
[特殊定規]ツールの[ツールプロパティ]で[特殊定規]→[同心円]を選択します。
画像中の円の形に合わせて描画したり…。
雲形定規の様にカーブした線(の一部)を楕円定規の扁平率を調整して描画したり…。
同心円定規のガイド線を利用して、同一線上にある円を描いたり、様々に活用できます。
これらの定規を組み合わせて交通標識や信号機などを描画します。
※手前の交通標識などは別レイヤーに描いて黒い線画の背景をマスクしています。
・仕上げ
樹木などの自然物はデコレーションブラシなどを利用して描きます。今回は周囲に馴染ませるためグレーでも描画してトーン化します。
樹木の描画には、CLIP STUDIO ASSETS(素材をさがす)で公開されている以下のブラシを使用しました。
手前と奥でレイヤーを分けて街路樹にも変化をつけます。
トーンやベタを描き入れて完成です。
[2]パース定規を複数設定する場合の補足
実際に撮影された街並みを利用する場合、建物の角度はすべて同じとは限りません。
同じ向きの建物を探して、パース定規を使い分ける必要があります。
この画像の建物は大きく分けて赤と青い線部分の建物でわずかに消失点の位置が違います。
この違いがなぜ発生するのか説明しておきましょう。
また、向きの違う建物を描くのが難しい場合の対処方法を紹介します。
・消失点とアイレベルの関係
例えば2つの立方体が同じ向きに並んでいる場合、消失点は共有できます。
しかし、横方向に回転した立方体は左右の消失点が移動します。
つまり、この構図の中には赤と青それぞれに消失点が必要になるということです。
※縦方向の線(下の消失点)は変わりません。
同じ平面上にある立方体は、向きを変えても縦方向の消失点の位置は変わりません。
実際の街並みでは、道路が必ずしも垂直に交わっているとは限らず、建物もそれにあわせて向きが変わっていることがあります。
しかし、柱はほとんどがまっすぐ垂直に上に向かっているため角度は変わりません。
【POINT】
もし建物が地面に対して斜めに建っていたら、縦方向の消失点は共有できません。このような描画は縦方向の消失点を別に設定します。
向きの違う建物を描く場合は縦方向の消失点が共通ですが、それ以外の消失点は移動します。
先ほどの立方体が横方向に回転した場合の消失点の位置の違いを思い出してください。
この時、消失点はアイレベル上を移動しています。
アイレベルとは地平線や水平線にあたる部分と同じ位置にあるものです。
左右にある消失点は必ずアイレベル上に存在しています。
私たちが地上で「水平」と言っているのは水平線のこと。 建物は水平線に対しておおよそ垂直に立っています。
遠近法では遠くにあるほど小さく見えるため、どんな大きな物体でもまっすぐ遠くに離れればやがて点に見える様になります。
街並みを描く場合、建物の向きは少しずつ変わる可能性があります。
道路もすべてが平行なわけではないですし、わずかな道のカーブなども建物の向きを変える要素です。
赤と青のパースの消失点が同じアイレベル上にあることを確認しておきましょう。
・複雑な建物の向きを無視する
写真を利用して背景を描く場合、実際の建物の向きがバラバラになる可能性が高くなります。
色違いの線がそれぞれ建物の向きが違うものです。慣れないうちは建物の向きの違いを把握することも大変な作業になります。
その場合のパース定規が以下の通り。パース定規を使った描画に慣れないうちは、向きの違う建物をそれぞれ違うパース定規でスナップさせながら描くのは少し大変です。
写真を利用して背景を描画する場合、元の画像をある程度無視して同じパース定規で描ける向きに変えてしまう方法もあります。
写真では道の角度に合わせて向きが違う建物であっても、必ずその通りに描かなければならない、という決まりがあるわけではありません。
画像のなかで特徴的な建物にパース定規を合わせたら、向きの違う他の建物をそれに合わせてしまうのもひとつの手です。
背景として問題なければすべての建物をひとつのパース定規で描いてしまうこともできます。
写真を利用する場合はツールの習熟度などに合わせてパース定規の使い分けを意識しておくといいでしょう。
[3]背景用写真を撮影するコツ
写真を利用した描画の際のコツを紹介します。
画像が「広角レンズ」で撮影されたものの場合、ひと工夫でイメージがガラリと変わります。
・レンズの「広角」に注意しよう
最近ではスマートフォンのカメラの性能が格段に良くなり、背景参考用の画像としても利用できるようになりました。
スマートフォンのカメラの多くは「被写体に近くても広く画面に収まるように「広角レンズ」を採用しています。
広角レンズで撮影すると、視野が広くなり多くの風景を収めることができます。
しかし、画像の周縁部では縦方向の線がだんだん斜めに傾いていくのが判ると思います。
広角レンズはより広い範囲を画像の中に収めるために画像の周縁部がこのように歪んでしまいます。
望遠レンズがあれば、ズームアップして撮影すると周縁部の傾きが抑えられます。
パースで縦方向の傾きが大きいと、そこに描く人物なども傾ける必要があったりと、少し扱いが難しくなることも考えられます。
人物を描く必要のある場合は「傾き」に気を付けておきましょう。
もし、ズーム機能のないカメラしか持っていない、という場合は画像を中央部分でトリミングしてしまうのもひとつの手です。
中央部分を拡大することになるので画像が荒れてしまう可能性もありますが、背景描画の参考として利用できれば問題ありません。
・作者プロフィール:平井太朗(へいたろう)
ComicStudioVer1発売日からのデジタルどっぷりユーザー。ComicStudioやCLIP STUDIO PAINTの公式ガイドや公式リファレンスで文字を書き連ねたり、色々マンガを描いていたり、家事をして生活しています。
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