Gui Guimaraes:CLIP STUDIO PAINTによるコンセプト・アート
メイキング動画
※本講座は、動画で解説されている内容を書き起こして翻訳・編集しています。
[1]自己紹介、ポーズデッサン
こんにちは、Guiです。moonlight orangeという名前でも活動しています。今回は僕の作った、サイバー・キャンディー・ガールシリーズのメイキング解説をしていきます。ソフトはCLIP STUDIO PAINT EXを使っています。
クリップスタジオを使い始めてしばらく経ちましたが、特に構想を練る段階で一番役に立つと考えています。いつも線がスムーズできれいに引けること、動作もかなり早いことが気に入っています。
今回はデジタル制作環境で一般的に使われているWacomのCintiq Companionで描いてますが、線も滑らかで動作も軽いです。
特別な調整もせず描いていくだけで、絵も問題なく決まります。調整とブラシ設定の柔軟さも素晴らしいですね。他のソフトに慣れているイラストレーターやコンセプトアーティストが、クリップスタジオのような「描くこと」に特化したソフトを一度使えば、違いは一目瞭然だと思います。
ブラシの手ブレ補正のように、他のソフトでは追加プラグインになっているような機能も元から組み込まれています。手ブレ補正とは、その名の通り線のブレを抑える機能です。綺麗な曲線や円を描く時に便利で、使いたくないときには切ることもできます。
総評としては液晶ペンタブレットとの相性が良いと思います。その他の利点には一般的な設定や[レイヤー]のシステムもありますが、なにより描いているときのスピード感がすごく良いと思います。
特にスペックが高くないPCでPC画面の録画をしたことがある人は、録画中にソフトの動作が重くなることをご存じでしょうが、今回はそんなことは一切ありませんでした。
それでは僕の制作過程について解説していきますが、工程の要所要所でクリップスタジオを使い始めて嬉しかったこと、便利だったことも解説します。
過去に僕の製作過程を見たことがある方には、普段他のソフトでしていることをクリップスタジオで同じように作業していることが分かると思います。最初はラフでキャラクターのデザインを探っていきます。
サイバー・キャンディー・ガールを描くことは楽しいので、その内の一人を描くことにしました。
普段の手順で進めれば問題のない仕上がりにはなりますが、それだけではなくデザインをよりよくしていく必要があります。
作業を進めながらデザインを洗練させていきます。この最初のラフでは、このキャラクターがどんな人物で、どんな性格なのか、見る人に伝えるヒントを与えようとしています。ポーズ、顔、そして洋服を使って表現します。
脚にダクトテープを足しました。サイバー・キャンディー・ガールを描くたびに「格好がいつも綺麗すぎる」と感じていたので、最近はダメージを自分で修復した様子や傷を足すことで彼女たちが新品ではなく、生きている感じを演出しています。
[2]色分け・クリッピング
デザインが決まったら、色分けをしていきます。
キャラクターのシルエットを色分けしていきます。最初は[自動選択]ツールで選択します。
クリップスタジオの[自動選択]は隙間とじのオプションで、線と線の隙間を埋めて選択できるのですごく便利です。線が完全に閉じていなくても、ソフト側で埋めてくれます。
僕の線画みたいに雑でも大体選択してくれたので、選択範囲への[塗りつぶし]ではなく、[ペン]ツールで塗らなければいけない部分は髪だけでした。それ以外の部分についてはソフトが全部塗るべき範囲を選択してくれました。
このオレンジ色のベースを作ったあと、他のレイヤーはベースレイヤーにクリッピングして、ベースレイヤーの形で切り抜いたように表示させます。クリップスタジオでは[レイヤー]パレットの[下のレイヤーでクリッピング]で簡単にできます。
ここで小技です。
新しく[下のレイヤーでクリッピング]するときは、最初にクリッピングしたレイヤーのすぐ下のレイヤーを選択した状態で新規レイヤーを作りましょう。そうすると、自動的にクリッピングされた状態でレイヤーが作られて設定を毎回変える必要がなくなります。
レイヤーのサムネイルの左横にあるオレンジ色のバーは、レイヤーが真下のレイヤーをマスクとして使っていることを意味しています。この状態で描けばシルエットからはみ出す心配もありません。
後で色を調整できるよう、色によってレイヤーを分けています。こうすることで個々に変更できます。
サイバー・キャンデイー・ガールシリーズはネオンライトがとても重要な要素なので、全体を少々暗くします。全体を暗くすると、光が目を強く引きます。
今回は濃紺色でキャラクター全体に少し青色を付けます。
[3]線画の整理
満足のいく配色が決まったので、線画を詰めていきます。
各パーツの形、ボリューム、表情は決まっていますが、清書の工程のためには少し情報量が足りません。
ラフを清書して、必要に応じて修正を加えます。ここではデザインと線画を同時に仕上げようとしています。
ラフの清書をしない人もいますが、僕はラフの清書のタイミングでデザインの検討も集中してできるので、結構大事な工程だと思います。
細かい修正は加えますが、基本的なデザインはなるべく変えないようにします。清書はデザインに納得してから始めますし、それまではラフを修正していきます。例えば首元のパーツに少し手を加えたのが分かると思います。
こういった小さな変更は後から加えることもできますが、大きな変更はなるべくラフの時点で決めます。とはいったものの、ラフを見直すことでイラストの品質をぐっと上げることができるので、いいアイデアが浮かべばどの段階でも変更を加えるのをお勧めします。
ラフと同じブラシを使っていますが、ラフの時より小さくして、この工程ではそのサイズから、ブラシサイズを変えないようにしています。このブラシは鉛筆をベースに、筆圧で大きさではなく、不透明度が変わるように設定してあります。もっと太い線が必要な時は線を重ねています。
ここの脚も、靴のデザインがまだ微妙だったので修正を加えました。形やパースを自由に変えつつ、これだ!と思うものを探っていきます。この時点では足の大きさに注目していなかったので少し小さくなってしまいました。この後、清書する時に直していきます。
▲[編集]メニュー→[変形]→[拡大・縮小・回転]
問題に対して、ひとつずつ対応するようにします。
首回りと頭のコントラストも高くするので、脚が寂しくならないように膝にデザインを加えました。この膝のパーツは機械の部品があるので、上半身の機械の要素を脚に移すことで腕だけで無く、脚も機械であるとこが分かるようにします。そうすることで物語を作ろうとしています。
デザインする時は、このキャラクターの情報をデザインとストーリーの両側面で伝えることを意識します。
見て頂いて分かるように、よりよいデザインへの調整が進んでいます。片方の腕を複製してもう片方へ移動させ、変形を加えていきます。腕のデザインは左右同じなので、作業速度を格段に速くできます。
完全な左右対称は避けて、ランダム性が出るように小さな変化を加えています。
ラフの一部を消しました。右のレイヤーパレットを見ると、ラフと清書、2つのレイヤーがあるのが分かると思いますが、元のラフは少し残しています。
[4]クリップ元レイヤーの調整
清書したときに線を修正したので、一度オレンジ色の下塗りに戻ってシルエットを整えます。
右側のシルエットのバランスが悪かったので、はねた髪を足して、手のポーズを少し変えました。このシルエットは塗る時のはみ出しを防いでくれるので、変更の多かった脚まわりは全体的に塗り直しています。
例えば靴はデザインを変えたので調整が必要ですが、ほかの部分はそれほど変わっていませんでした。
二度手間に思えるかもしれませんが、後で役立ちます。他の塗りレイヤーにも同じ処理をします。はみ出ているかどうか確認し、必要に応じて境界線の整頓、シルエットの塗り足しをしていきます。
クリップスタジオの利点の一つに、ショートカットの自由度の高さがあります。どんなブラシでもアクションでも、ショートカットを割り当てることができます。
別のショートカットを一つのキーに割り当てることもできます。例えば、僕は[b]にハードブラシとソフトブラシを割り当てています。一度[b]を押すとハードブラシになりますが、[b]を再び押せばソフトブラシに変わります。このおかげで、慣れるとスケッチや塗りが驚くほど速くなります。 ブラシの設定項目も多くて、自由に設定することができます。
僕は基本的に標準の丸ブラシを使います。塗るときは色混ぜツールは使わずなるべく筆圧を調整して塗るようにしています。クリップスタジオでは筆圧をきちんと調整できるので、綺麗に塗り込めます。
[5]色の調整、光と影
色を置いてレイヤーを調整したあとは、スカイライト(天空光・環境光)や鼻のローカルカラー(固有色)を足していきます。
スカイライトを描き込むときは、光の当たっている部分を想像して(今回は)青く塗ります。
レイヤーを[スクリーン]に設定しているので、塗った色により、明るさだけがキャンバスに反映・投影されます。 ここでは体と素材の特徴をとらえようと、骨格に沿ってしわ等を足していきます。
今の状態だと効果が強すぎるので、かろうじて見え、質感が出せる程度に不透明度を調整します。
そのあとはオクリュージョン(微妙な陰影)を少しだけ足します。 僕は光で塗るのが好きなので、他のパーツにより落ちる影のことなどはあんまり考えず、最初に大まかな影を要所要所に描き込んでいきます。
主に髪と内ももに足して、画面に程よくコントラストが出るようにしています。まだ仕上げの段階ではないので、仕上げに向けて絵全体を整えていくというイメージで進めています。
透明ピクセルにロックをかけて、塗り足します。
キャラクターを目立たせるために背景をもう少し黒くしました。
▲[編集]メニュー→[色調補正]→[色相・彩度・明度]
[6]絵全体の仕上げ
レイヤーパレット上でオレンジ色のベースレイヤーをCtrl+クリックし、線画レイヤーをCtrl+Shiftクリックすることでふたつのレイヤーから選択範囲を作成しました。
こうすることでキャラクターのふちを明るくするリムライトが線画にも乗るようになりました。線画も選択するのはオレンジのベースだけでは若干のズレが見られるためです。
脚に影を少し足して、上半身を引き立てます。
背景に若干紫を足しました。これまで背景は黒100%でしたが、キャラクターの影が青色なので、若干赤みがかって見えていました。紫を足すことで、純黒より黒く見えるようになります。
最後の仕上げに入ります。
仕上げ作業のためのレイヤーのグループを「仕上げ」とリネームして、塗り始めます。
キャラクターの顔から仕上げを始めます。顔はキャラクターの印象を決める部分であり、塗っている途中で一番変わる要素でもあるからです。今のアニメ風スタイルでは、顔はすごく単純化されます。描き込むことで質感を出していくわけですが、線画による下絵はタッチが立体的ではないので、この質感が下絵の印象を大きく変えることもあります。この工程で顔が変わるのは分かっているので、だからこそ顔から作業を始めて当初のイメージになるべく寄せるようにします。思い浮かべていたキャラクターのイメージを立体に寄せていきます。
僕の場合は自分のキャラクターをフィギュアとしてイメージすると作業がしやすくなります。平面的な絵としてイメージすると質感が掴みづらいですが、フィギュアとして見るとすぐに分かります。どういう工夫があるのかとても参考になるので、アニメフィギュアを持っていればそれを見たり、ネットで写真を探してもいいと思います。こういう参考資料は積極的に使っていきましょう。
ここでは線画と同じブラシを、色混ぜのために使っています。ソフトの動作が軽快なので、素早く色を[スポイト]で取得して塗る、という操作を繰り返すことができます。下塗りの色から、絵全体のための色をスポイトすることができます。
色混ぜ自体は筆圧と連動しているので、力を入れると不透明になり、抜くと透明になります。これに加えて他の柔らかいブラシをいくつか使って、表現したい色混ぜをしていきます。滑らかではない、すこし筆跡が残るようなスタイルを目指しているので、色を綺麗に残しながら混ぜていくようにします。
色混ぜの設定を調整することもできます。僕のブラシでは使っていませんが、塗っている部分の下色を少し混ぜるように設定して、簡単に、絵の色に油絵のようにリアルな深みを与えることができます。色が混ざることで、単純に明るい色を乗せるだけでは表せない、新しい第3色ができるためです。
不透明度を下げたブラシを使った塗り重ねをする際、うまく色が混ざらないソフトウェアもありますが、クリップスタジオにその心配はありません。例えば緑の上に不透明度20%の青を塗った場合、青の下の緑がきれいに、鮮やかに透けて見えます。他のソフトだと色がくすんでしまって、自分で正しい色を塗る羽目になってしまうこともあります。ガムテープの色混ぜも、色を変えながら何回か筆で塗っただけで終わりました。
プラスチックのミニスカートの反射は不透明度を下げた白で表現しました。少し荒いですが、いい効果だと思います。
紫のソックスを見ると分かりやすいですが、脚は先ほどスカイライトに使った青を使っています。暗い部分から色を選んで、脚やショートパンツのゆるみや折り目を描いていきます。
[7]コントラストの調整
コントラストを戻すために影を顔に足していきます。ここからはキャラクターの上半身に集中して仕上げます。
脚まわりの衣装にしわを足していますが、上半身より少し荒く塗っています。このようなコントラストを作ることで、絵を見る視点を操作することができます。
コントラスト(対比)を作る要素は「陰影、色調、彩度」などなんでもいいですが、コントラストを増やすと、より視線を集めることができます。 例えばこの時点で靴にもコントラストはありますが、シャープな線と高いコントラストは首と頭、特に細かい機械が描き込まれている腕にあります。
顔にコントラストが足りない気がするので、先ほどの理由から影を少し足していきます。他の部分のコントラストが高いと、視線がそっちに行ってしまうためです。
明るい色でまつ毛に色を付けました。
[8]発光と仕上げ
良い感じに仕上がってきました。次は発光する部分に効果を足していきます。
現時点でも彩度は高いですが、発光しているとは言えません。光の効果が乗っているレイヤーを複製、合成モードをスクリーンにした上で[ガウスぼかし]をかけてにじませ、彩度を上げました。発光部分が明るくなったのが分かると思います。
▲[フィルター]メニュー→[ぼかし]→[ガウスぼかし]
同じ操作をリムライトに加え、リムライトにも発光効果をつけます。
背景が平坦になっていたのを塗り足して調整してから、最後の仕上げに入っていきます。
クリップスタジオで好きな機能の1つが、[選択範囲]ツールと一緒に使える[メッシュ変形]です。僕は「Shift+T」にショートカットを設定しています。これを使うと最終段階での微調整ができます。今回は描き終わった後に頭が大きすぎたと思ったので小さくしました。
▲[編集]メニュー→[変形]→[メッシュ変形]
普段はスケッチやコンセプトアートに使うので、クリップスタジオで絵を描くのは新鮮で楽しかったです。これがクリップスタジオで描く二作目の作品になりますが、結果にも満足しており、早く仕上げられたことが嬉しかったです。普段使っているブラシと、ノイズを足してシャープな印象を与える仕上げのワークフローも、クリップスタジオで再現することができました。
ブラシの滑らかさには驚きましたし、形、陰影をきっちりと描けて良かったです。
楽しんでもらえたなら嬉しいです。
こちらが完成した作品です。僕自身描くのを楽しめたので、後は皆さんが僕の技術やクリップスタジオの使い方から何か学べることがあれば、と思います。
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