コミックアーティストToni Caballeroのマンガ原稿制作

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[1]はじめに

みなさん、こんにちは。イラストレーター/コミックアーティストのToni Caballeroです。Planeta MangaとPlaneta Cómicの『BACKHOME』(脚本のSergio Hernándezと共著)というマンガの作画を行っています。

このチュートリアルでは、私たちの作品の原稿1枚が完成するまでの、制作過程を紹介します。最初のラフによる構成から、原稿の最終的な仕上げまでの作業の中で、マンガ原稿を視覚的にも物語的にも機能させている部分を解説します。

それでは面倒な前置きは終わりにして、始めましょう。

 

[2]ページ構成

私が普段マンガを制作する際の用紙サイズは、常に出版社が決めています。Planeta Mangaでは、17.5 x 25.5 mmのサイズを使用します。その上で、原稿の両端(天地左右)に5mmの裁ち落とし幅を追加する必要があります。これにより、印刷の工程でわずかなエラーが発生した場合でも、描画に影響が及ぶことはありません。

最終フォーマットがモノクロになるため、1200dpiの解像度に設定します。ただ、モノクロ2階調に変換するまでは、すべての作業を[基本表現色]:[カラー]で行います。

 

キャンバスの準備ができたら、パートナーである脚本家Sergio Hernándezと取り決めたとおり、コマ割りと構図をスケッチします。

以下の図で分かるように、それぞれの配置を決め、アイデアが機能していることを確認しながら、まずはすべてを単純な形状で描きます。次に、ラフを最終的な下絵になるまで描き込んでいきます。そうして、最終版の下絵をなぞってペン入れができる状態になりました。

 

私というクリエイターが興味を持っている場所に読者の焦点を合わせるため、視覚的な物語に関して、以下のような要素を使用しました。

 

最初のコマでは、主人公を困らせるクリーチャーである「シャドウ」(作中でそう呼ばれています)が、読む方向に向かって、右から左に部屋に入ってきたことが分かります。読み手の視線を次のコマに移動させることができる、必要不可欠な要素です。

この図では、主人公のアンとアイデンが前にいた場所から移動しており、キャラクターの向きも変わっているのが分かります。読者は無意識のうちに、彼らが逃走している、あるいは困っていることを感じ取ります。物語の描かれ方が、同じ方向に流れていないためです。また、コマ枠によって、次のコマへの視線誘導を強化しています。

 

3コマ目では、アンとアイデンが最初にいた場所からどれほど離れたのかを確認できます。木々の作る垂直線が広がっているため、視線はすぐ下のコマに移動します。

 

どこに向かっていいかためらう主人公たちの心情を描くために、私はボディランゲージを活用します。彼らをよく見ると、アイデンとアンは完全に逆の方向を見ており、目によって優柔不断さを表しています。本質的で自然に機能するものであり、つまり、とても重要なことに、それは読者にすぐに理解されます。

 

さらに、漫画を読むときに読者は上から下、右から左に入るため、まず右のアイデンの顔を観察してから左のアンの顔を観察し、その後、次のコマでシャドウの顔に到達します。先ほど触れた木々による垂直線で、すべてが補強されています。

 

4コマ目は、ページの最初に見たシャドウのクローズアップです。視点を右に傾けさせ、さらに手の非常なクローズアップで補強し、5コマ目に視線を誘導します。

 

この5コマ目では、ご覧のとおり、1コマ目と同じテクニックを使用しました。

 

これにより、最後の6コマ目に移動します。ここでは、読者の感覚を左に集中させ、次のページの最初のパネルに向かう木の方向を視覚的に強調しています。物語にリズムを与えるために、このテクニックが役立ちます。

 

[3]インク入れ(ペン入れ、ベタ)

ここまでの作業が終わったら、原稿にペン入れする時間です。これは、私が個人的に最も楽しんでいる作業です。また、すべてがよく見えるように、最も努力するパートです。

 

 ■コマ枠 

ページの基本枠に合わせて、25ピクセルのブラシサイズのコマ枠をページ全体に追加します。次に、[コマ枠]ツール→[枠線分割]サブツールを使用して、枠線をコマごとに分割します。※カットされていない「1コマ」のコマ枠テンプレートは、[素材]パレット→[漫画素材]→[コマ枠テンプレート]に格納されています。私の場合、その素材を[フキダシ]フォルダーに移動した上で、素材名を変更しています。私が使用する唯一のプリセットコマ枠テンプレートであり、こうしておくことで簡単に見つけられるためです。

 

キャラクターのインク入れがすべて完了したら、白く塗りつぶした新規レイヤーを追加して、コマ枠と結合します。そのレイヤーを2値化して、完全に分割できるようにします。※[編集]メニュー→[色調補正]→[2値化]で2値化できます。次に、[自動選択]ツールを使用してコマ枠の内側を削除します。これでキャンバスに、すべてのコマ枠の外側(みぞ部分)の、1枚のレイヤーができます。

 

 ■ブラシの描き込みとキャラクターへのインク入れ

下絵レイヤーの上に追加した新規レイヤーを白で塗りつぶして不透明度を低くし、アナログのライトテーブルのように利用します。

 

また、キャラクターを描くためにレイヤーをもう1枚追加しています。

 

線画に描き込みを加えるために、[リアルGペン]サブツールをアンチエイリアス:[中]で使用し、斜線によるハッチングや濃淡(これらは、この作品のグラフィックに非常によく溶け込みます)を簡単に作成できるようにします。モノクロのアンチエイリアスがないブラシで描き込むよりも、有機的な効果を与えます。

 

それでは、インク入れを始めていきます。

 

[リアルGペン]サブツールでキャラクターのアウトラインを詳細に描き足しました。シャドウに大量に黒が使われているので、カケアミタイプのブラシをいくつか使用して、アナログ風なインクの仕上がりになるよう描き込みます。

 

実際には、以下の2つのブラシを使いました。

 

髪の毛に到るまで、インクの細部に磨きをかけます。髪の毛については[ざらつきペン]サブツールを使用し、描画色を白と黒で切り替えながら、奥行きとリアルさを与えています。 この作業はすこし大変で時間がかかりますが、効果は大きいです!

 

キャラクターのインク入れが済んだら、ライトテーブルとして使用していた白いレイヤーを再利用します。100%の不透明度に変更して、上にあるインク入れしたレイヤーと結合します。

 

結合したレイヤーを2値化すると、描画はモノクロになります。コマ枠レイヤーで行ったように、正確にトリミングする準備ができました。 (この手順は、このチュートリアルの中で繰り返されます)。

 

[自動選択]ツールで、レイヤーからキャラクターの描画以外をすべて選択し、消去します。 これで、コマ枠と同じように、インク入れされたレイヤーが分離できます。

 

シャドウの手でも同じ処理を行います。後でぼかしてコマ枠内に奥行きを作るために、別のレイヤーに描画しています。

 

[4]背景

このページでは、遠近感のある描画や写真を活用することで、描画全体のリアリティを強化します。

今からその効果をお見せしましょう。

 

 ■0からリアルな背景を描く

2コマ目から始めます。このコマには、ベースに写真を使用しません。CLIP STUDIO ASSETSからダウンロードしたブラシを使用して、非常にリアルな画面を作成します。

 

[ミリペン]サブツールで窓枠の輪郭を描いた後、大きいブラシサイズの[リアルGペン]サブツールを使って、全体を加筆します。これにより、線画のエッジがより粗くなり、金属面の錆の効果に似たものになります。それからストロークに対して、カケアミブラシで消去したり、描き加えます。 以下の2つのブラシを使用しました:

 

その後、割れたガラスを別のレイヤーで仕上げて、窓枠とガラスレイヤーの間に透明感のある白いレイヤーを作成します。実際のガラスと同じ効果です。

 

そして最後に、窓枠と白いレイヤーを結合し、キャラクターレイヤーやコマ枠レイヤーと同じ手順で範囲外を消去します。

木のようなテクスチャのブラシを使用して、木の幹すべてを詳細に描き込み、木の葉ブラシで葉を茂らせます。 画面を写実的にするグレーの色調で、さまざまな影を加えて、実験しています。

 

ここで、シーンに夜の効果を与えるために、合成モード[乗算]で描画を追加します。さらに、窓枠レイヤーを[フィルター]メニュー→[ぼかし]→[ガウスぼかし]でぼかし、雪景色にするためのパーティクルも追加します。

 

一部のパーティクルも、窓枠と同じようにぼかしフィルターを使用してコマ枠内に遠近感をつけます。

 

 ■写真をベースに背景を描く

シャドウが部屋に踏み入るコマでは、写真をベースに背景を作成します。

 

まず、キャラクターレイヤーの下に写真を配置します。イメージする遠近法に合わせて位置を決めたら、写真レイヤーを複製し、アンシャープマスクをかけ、写真内の見えにくい線を目立たせます。([フィルター]メニュー→[シャープ]→[アンシャープマスク])このレイヤーをさらに2回複製し、それぞれ違う閾値で2値化します。影が少ないものと影が多いもの、2種類を作成しました:

 

それから、それぞれのレイヤーで、はっきりしない部分や線を消去して取り除いていきます。これで、2枚のレイヤーの下にある2値化前のレイヤーが現れるため、正しい線が分かります。レイヤーマスクの助けを借りると、作業ははるかに簡単になります。

ほとんどの線が表示されている状態になるまで、この作業を繰り返します。

 

アナログ風に仕上げるために、再びカケアミブラシを使用します。今回は斜線だけでなく、消去するために透明色の[リアルGペン]も使用します。

 

インク入れの仕上げに、写真を画像処理したことで消えてしまった部分の輪郭線を描き、前のコマと同じ手順でガラスや外観を仕上げます。

 

この背景に陰影を追加するために、最初に読み込んだ状態の写真のレイヤーを使用します。表現色をグレーに変更し、色調を調整したあと、[階調化]を適用して、6階調のみにします([編集]メニュー→[色調補正]→[階調化])。

 

最上位のレイヤーを[乗算]に設定します(前のコマと同じように、線画と、夜の効果を与えるために追加したものの両方)。

 

最後に前のコマと同じ仕上げをすることで、統一感のある画面になります。

 

[5]最終仕上げ(ディテールとスクリーントーン)

 ■描き文字

これから追加する要素のために、新しいレイヤーを作成します。(配置を決め、デザインが済んだら削除します。)

描き文字とシャドウのフキダシから始めます。 ここでは、雪のパーティクルに使用したブラシと同じものを使用しています。

 

2値化すると、ブラシストロークの周りにざらざらとした線が現れます。描き文字の見栄えはよくなりますが、シャドウのフキダシからは削除します。また、フキダシは描き文字から分離させるため、切り取り&貼り付けで別のレイヤーにします。

 

 ■フキダシ

素材パレットから、フキダシを追加します。

 

配置したこれらのフキダシは、必要に応じて編集でき、素晴らしいことにGペン風に変更もできます。すべて配置したら、レイヤーフォルダー内で整理します。

 

 ■スクリーントーン

チュートリアルの最後のステップとして、マンガ独特のスクリーントーンを追加する時が来ました。

 

まず描き文字とフキダシレイヤーだけを非表示にし、その他の表示されているレイヤーすべてを新しいレイヤーとして結合します。([レイヤー]パレットで、右クリックして表示されるメニューから [表示レイヤーのコピーを結合]します)。

これで原稿の描画全体を1枚のレイヤーにまとめることができ、シンプルな方法であっという間にスクリーントーンの効果が付けられます。

 

結合したレイヤーを選択して、[レイヤープロパティ]パレットの[トーン化]をクリックします。

 

これだけで、レイヤーにトーンが貼られた状態になります。

『BACKHOME』を発行しているPlaneta Mangaは、雑誌のサイズが大きいため、トーンの設定は濃度を最大限に使用しています。これが、キャラクターや背景のインク入れに対してマッチする最適な設定です。

 

原稿が完成し、書き出しの準備ができました。

 

[6]終わりに

どうでしたか? 自分としては、素晴らしいと思います。

あなたが『BACKHOME』のようなリアルなマンガ原稿を作成する際、このチュートリアルが、CLIP STUDIO PAINTの操作を理解するために役立つことを願っています。

このチュートリアルを作成するために、CLIP STUDIOで作業できたことは素晴らしい体験でした。またお会いできると思っています、そうだといいのですが!

 

 

 

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私の作業方法をあなたと共有できて嬉しいです!

Planeta Mangaの『BACKHOME』次のチャプターでお会いしましょう!

 

それでは!Ciao!

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