デジタルで水彩風のイラストを描くための複数のアプローチ

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シーベ

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この記事では水彩(特に透明水彩)風の絵をデジタルで描く方法を複数を紹介します。

CLIP STUDIO PAINTの基本操作に慣れ、表現の幅を広げたい方向けのヒント集として読んでいただければと思います。

この記事の内容を習得することで、上の作例程度の塗りはできるようになります。


アナログ水彩技法の理解

まずは実際のアナログ水彩がどのような技法で描かれているか、そしてどんな特徴があるかを理解しましょう。

以下の画像は、実際にアナログ水彩で描いたものです。

A:ウェットオンドライ(重ね塗り)

先に塗った絵の具が乾いてから塗り重ねる。重なった部分の色は濃くなる。

フチの部分の色が濃くなるのにも注目。(水彩境界と呼ばれる)

 

B:ウェットオンウェット

先に塗った絵の具が乾く前に次の色を塗る。

半乾きの状態で水を塗ると「バックラン」と呼ばれるもわもわした模様が出る。

 

C:グラデーション

 

D:塩

絵の具が乾く前に塩を振ると、塩が水分を吸い込み独特の白っぽい模様が出る。

E:ウェットオンウェット(水)

先に水を塗っておいてから絵の具をたらす。独特のボケが出る。

 

F:リフティング(ふきとり)

絵の具が乾いてから、濡らした筆やティッシュで絵の具を拭き取る。

 

G:ドライブラシ

水気の少ない筆で描く。筆のカスれがよく出る。

 

H:線と組み合わせる

水彩で線画によく使われるのは

鉛筆、色鉛筆、耐水インクペン等。

絵の具を塗ってから、水彩絵具で細い筆で最後に線を描き込む方法もある。

【紙について】

水彩紙には一般的に「細目」「中目」「荒目」があります。

後者ほど表面の凸凹が強く、テクスチャが大きく強く出ます。

また、線を引いた時にアナログらしいガサガサとした質感が強くなります。


デジタルイラストで水彩を再現する

上記の特徴を踏まえた上で、どのように水彩らしさをデジタルで再現するか考えていきましょう。

以下の点のうちいくつかを取り入れることで、水彩らしさが出ます。

  • 水彩紙らしいテクスチャ

  • 水彩境界

  • ウェットオンウェットのようなにじみや、バックランを感じさせる濃淡

  • 紙に描いたようなざらつきのある線画


レイヤー効果を活用する

クリップスタジオには水彩境界を再現する方法がいくつかあります。

下の作例では、

レイヤープロパティ>効果>水彩境界

を選択することで、シンプルなベタ塗りのレイヤーに水彩らしい縁取りを追加しています。カゲを入れる乗算レイヤーにも同様に水彩境界効果を適用しました。

アナログらしさを出すために、線画は初期サブツールの「リアル鉛筆」を使って描いています。

さらにアナログらしさを出すために、デフォルトで収録されているテクスチャのうち「中目」をクリッピングしました。

レイヤープロパティ>効果>質感合成

を今回は使っていますが、レイヤーモードを「オーバーレイ」にしてもよいです。

好みのやり方で水彩紙のテクスチャを合成しまししょう。


水彩テクスチャを張り込む

水彩らしさを出すため、実際にアナログ水彩でつくったテクスチャを貼る方法です。アナログ水彩の深みのある濃淡をそのまま利用できるメリットがあります。

 

テクスチャは余った絵の具で自作しても良いですし、ASSETSで配布されているものを探しても良いです。今回は以前自作したテクスチャを使っていきます。(ASSETSにて無料配布中です)

①色を塗りたい部分にベースの色を塗ります。みやすい色なら何色でもOKです。ところどころ「繊維にじみなじませ」でボカして薄くしています。

 

②塗っておいたベースにカラーテクスチャをクリッピングします。フチの部分にメリハリがほしいので、「薄い鉛筆」で水彩境界らしきものを手描きで追加しました。

 

③目とほっぺの赤み用の塗りベースを別レイヤーで作り、①と同様に黄色のテクスチャを貼りました。その上にレイヤーモード「カラー」で緑・赤を塗ることで、色を変えています。オーバーレイやハードライト、色相等、お好みのレイヤーモードで色を変えましょう。

 

④焼き込みリニアレイヤーでカゲを塗りました。前章で登場したレイヤー効果「水彩境界」を使っています。


ブラシを活用する

CLIP STUDIO PAINTには、初期サブツールだけでも多彩な水彩向けのブラシが用意されています。

右のブラシは「初期サブツール>色混ぜ」に収録されています。色を塗った後、これらのブラシで色を伸ばすことで水彩らしくなります。

 

左のブラシは「初期サブツール>筆>水彩」に収録されています。デフォルトの設定だと合成モードが「乗算」になっていて、同じレイヤーで塗り重ねるほど色が濃くなります。好みで合成モードを「通常」に切り替えましょう。

ツールプロパティのここで合成モードを変更できます。

 

では、実際にデフォルトの水彩風ブラシを使ってみましょう。

A:「水彩丸筆」をトントンと簡単に重ね塗りしました。シンプルですが、テクスチャと濃淡のおかげで水彩らしさが出ます。

 

B:「ウェット水彩」で濃淡をつけながら塗り、色が足りない部分を「にじみ水彩」で濃くしました。さらに「繊維にじみなじませ」で右下部分から色を抜くことで、バックランを再現しています。

 

C:色を塗る領域を選択範囲で指定しはみ出さないようにした後、「粗い水彩」でぽんぽんと色を置きました。「質感残しなじませ」で境界をなめらかにしています。

水彩境界とぼかしのコツ

水彩境界オンのブラシでぬった後、部分的にぼかすことで、メリハリがつき水彩らしさも出ます。

また、塗り重ねた際に意図せぬ水彩境界が出てしまったら、なじませブラシ等で不要な線をぼかすことで、塗りムラが目立たなくなります。

ブラシのカスタマイズ

「一時的に水彩境界をオフにしたい」「水彩用のブラシじゃないけど、水彩境界がついていれば使えそうなのに」と思うことがあります。

そんな時はブラシの設定を少しいじってあげましょう。

ツールプロパティの🔧マーク>水彩境界>「水彩境界」のチェックボックス

もしくは

上部メニューの「ウィンドウ」>サブツール詳細>水彩境界>「水彩境界」のチェックボックス

ここのオン/オフで水彩境界の有無をコントロールできます。

普段使っているお気に入りのブラシに水彩境界をつけて、水彩風の絵を描くのに使ってみるのも楽しいですよ。

画像は厚塗り系初期サブツールの「ガッシュ」に水彩境界を追加したものです。

水彩のドライブラシ風にも使えそうですね。

水彩境界の太さや濃さも、このサブツール詳細から編集できます。パラメータをいじって、好みの設定を探してみてください。


その他のコツ

グラデーションマップを使おう

ブラシやレイヤー効果で水彩境界を再現した際

  • フチの色が沈んで見える

  • 濃淡が単調に見える

ということがあります。

明度・濃度の差はあっても、色相の差がないことによって色に深みが出ないことが一因です。

これを解消するために、グラデーションマップを使うことをおすすめします。

上部メニューのレイヤー>新規色調補正レイヤー>グラデーションマップを選択

水彩境界が鮮やかになり、黄色からオレンジ色に色相が変化することで色がリッチになりました。

色変更ができないカラーのブラシ素材を使う際も、グラデーションマップを利用すると綺麗に見えます。

有償の自作素材からの引用となり恐縮ですが、グラデーションマップを使った色変更の例です。

アナログ水彩で描いたパーツを、グラデーションマップを使って加工しています。

ASSETSでは無料のものを含めグラデーションマップがたくさん配布されています。ぜひお気に入りのものを探してみてください。

アナログと組み合わせる

本題から少し逸れますが、アナログで描いた線画を撮影し、CLIP STUDIOで色を塗るのも手軽でおすすめです。新しい絵の具を買い足さなくても、無限に好きな色を使えるのはデジタルの強みです。

線画を乗算レイヤーにし、それより下に作ったレイヤーで好きなように色を塗りましょう。

紙の質感が足りないと感じた場合は、追加でテクスチャを貼るのもおすすめです。下の作例では、塗りレイヤーにテクスチャ(質感合成レイヤー)をクリッピングしています。


自己流メイキング

おまけみたいなものですが、冒頭の作品のメイキングです。

※手癖に従ったいつもの描き方をするために、いままで紹介した素材に加えて自作素材をたっぷり使っています。有償素材が多いですが、近い描き味のものを探せば無料素材でも似たようなことができるはずです。

 

ざっくりしたメイキング動画を作りましたので参考まで。

線画と塗りには主に下記のセットに収録されている素材を使いました。

線画には「sb水彩_インクペン」を使いました。カラーインク+つけペン、もしくは細筆+絵の具でペン入れしたイメージです。

水彩境界がついたペンならだいたい代用できると思います。

まずは線画の下に色塗りのベースとなるレイヤー(「ベース」レイヤー)を作成し、不透明度100%で塗りつぶします。

あとから背景を追加したくなったとき、透け防止となるためです。

 

「ベース」レイヤーの透明度をロックし、下地となる色を置きます。質感が入ったブラシを使いつつ、水彩境界等の主張が強い箇所は伸ばし系ブラシで馴染ませます。

使用した主なブラシは下記の通りです。

  • sb水彩_もこ

  • sb水彩_▲

  • sb水彩_▲のばし

  • 繊維にじみなじませ(デフォルト)

アナログの水彩でもそうなのですが、メインで使う色以外にも差し色を入れてあげると華やかになります。今回は薄いピンクをベースに、髪に濃いピンクや薄紫を入れました。

↑ベースができた状態です。

この段階で全体の雰囲気ができていれば、このあと塗り込みで方向性がぶれにくくなります。光が当たるところ、カゲになるところも大雑把に意識しましょう。

濃淡のムラやグラデーション、バックラン等のテクスチャを作っておくとそれらしいです。

 

線画と塗りベースを「人物」フォルダに入れ、このフォルダにデフォルト素材の「中目」を質感合成レイヤーで適用します。テクスチャの乗ったブラシを多用するため、このレイヤーの透明度を50%まで下げ、うるさくなりすぎないようにします。

 

「塗り」フォルダを作成し、「ベース」レイヤーにクリッピングしました。「塗り」フォルダ内にレイヤーを増やして細部を塗っていきます。

※大きい絵を描く際はこの「塗り」フォルダ内のレイヤーをパーツごとに分けたり、カゲ用レイヤーを分けたりします。今回はシンプルな絵なのでほとんどレイヤー分けをしていません。

 

まずは目立つ特徴である角から塗っていきます。

「sb水彩_インクペン」で、カゲを入れたい部分の輪郭を塗ります。必要な水彩境界を残しつつ、ブラシサイズを小さめにした「sb水彩_▲のばし」でのばします。

全てのパーツでひたすらこれを繰り返します。ほとんどそれだけです。

 

カゲ色選びのコツとして、この2点を意識しています。

  • 塗る箇所より少し濃い色を選ぶ

  • 時々、塗るパーツの近くのパーツから色を拾ってくる(例:髪のカゲにリボンの紫を使う)

色味が足りない箇所は水彩境界をオフにした「sb水彩_もこ」等で色を足しています。(首元の髪等)

目の白い部分は「sb水彩_インクペン」で白を塗りました。アナログでもホワイトを部分的に使うことがあるので、それを意識しています。

塗り終わったら、線画レイヤーの透明度をロックし、色トレスします。茶色や紫に線画の色を変え、柔らかく馴染むようにしました。

透明度を下げたブラシで、塗りに使った色をスポイトしてくると成功しやすいです。

最後に、背景が真っ白だと寂しいので、それらしく素材で埋めます。

「人物」フォルダの下に背景用のレイヤーを増やし、「枝葉_正面_青」で左側に葉っぱを生やし、「点丸ライン_青」で右側を飾ります。

グラデーションマップ(むらさきぶどう)で色を変え、葉っぱの根元に汚し系ブラシで白を置いて馴染ませました。

さらにカラーレイヤーをクリッピングし、「sbインクにゅるよごしmix」ブラシでピンクを薄く入れました。アクセントになることに加え、人物がピンクがかっているので馴染ませる意図があります。

 

 

さらに下にレイヤーを作り「水彩テクスチャよごし」ブラシで紫を置きます。レイヤーを1枚増やし、「ぷわ花_青」でお花を置いたら透明度をロック→白で塗りつぶします。

アナログ水彩で、花をマスキングインクで描いておき、ウェットオンウェットで絵の具を薄く置いた状態をイメージしています。

 

背景に使ったブラシ素材は下記のセットに収録されています。

最終的な背景のレイヤー構成はこんな感じです。

完成しました。サインも忘れず入れておきましょう。

おわりに

今回のメイキングでは塩の表現に全く触れられなかったのですが、ASSETSには塩技法を再現できる素材がたくさん配布されていますのでぜひ探してみてください。

デジタル絵をメインとする人も、アナログ画の技法を学んでみて欲しいです。

アナログの技法をデジタルでどう再現するか考えることは、ツールの理解を深め、表現の引き出しを増やしてくれます。

 

クリップスタジオは幅広く多様な機能を備えており、同じ結果に対して複数のアプローチを取ることが可能です。ASSETSではそれを実現する多種多様な素材が配布されています。

あなたが1番楽しく描けるやり方を探ってみてください。よいクリスタライフを!

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