広い範囲の線の太さを、均一かつ微妙に調整するための小技
漫画を描いていると、長く作業した後で「あっ、このコマの線、ほかと比べて太すぎたな」とか「細すぎたな」と気づくことがあります。
また1枚のイラストを描いていても、仕上がりを見た後で、やはり全体の線の太さを、できるだけ元の強弱を維持したまま、微妙に調整したいと思ったりします。
そんなとき使うとしたら、まず「線幅修正ツール」が思いつきます。が、広い範囲を均一に調整するためにブラシサイズを大きくすると、処理が重くなってしまい、時間がかかります。
小さいブラシサイズのままでも、やはり時間がかかりますし、変化にムラができがちです。
このTIPSでは、そんな場面でブラシ型の「線幅修正ツール」を使わず、「広い範囲の線幅を均一に、かつ微妙に調整できる」小技を紹介します。
ただしこのテクニックは、元の線画がベクターレイヤーで描かれている場合のみ使用可能です。
1:「太さを変えたい部分の線画」を別レイヤーに分ける
同じレイヤー内に「調整したい部分」と「そうでない部分」がある場合は、干渉を避けるため、まず「調整したい部分」を別レイヤーに切り分けておきます。
対象のレイヤー上で範囲を選択した後、Ctrl + X で切り取り、そのまま Ctrl + V で、そのレイヤーのすぐ上に貼り付けを行います。
貼り付けたレイヤーは、最終的には元レイヤーに結合するので、レイヤー名の変更などは必要ありません。
2:「太さ変更」のチェックを入れた状態で、サイズを変更する
調整したいレイヤーを選択し、「拡大・縮小・回転」の変形を行います。
(PCでの初期ショートカット:Ctrl+T)
このとき、ツールプロパティ(変形)のパネルで「ベクターの太さを変更」にチェックを入れます。これで、拡大率にあわせてベクター線の太さが変化するようになります。
線幅の変化量は、ツールプロパティのパネルから入力します。
「縦横比の固定」にチェックを入れておきます。
線の太さを1.2倍に太くしたい場合、「120」の数値を入力します。
線の太さを0.8倍まで細くしたい場合、「80」の数値を入力します。
入力したら、その状態でEnterキーを押し、変形を確定させます。
3:「太さ変更」のチェックを外し、絵をもとの大きさに戻す
次に、同じ絵をまた「変形」ツールで元の大きさに戻します。
ただし今度は、ツールプロパティの「べクターの太さを変更」オプションのチェックを外しておきます。
元の大きさに戻す際の数値は、「100」を「さきほど変形させたときに使った値」で割ることで算出できます。たとえば、
さきほど120%に拡大した場合:100 ÷ 120 = 83.33333.....%
さきほど80%に縮小していた場合:100 ÷ 80 = 125%
です。
注意点として、ツールプロパティのパネルには整数しか入力できません。そのため、元に戻す際の数値に端数が出ている状態で、正確に元の線画サイズに戻したい場合は、手動で微細な調整を行う必要があります。
変形を確定させると、元と同じサイズで、拡大・縮小された線幅の線画を得ることができます。以下は変化量のサンプルです。
オリジナルの画像:
110%に拡大:
125%に拡大:
85%に縮小:
調整後の太さが気に入らなければ、再度2~3の手順を行うことで、線幅を微調整できます。
最初にレイヤーを切り分けていた場合、調整後のレイヤーを、元レイヤーと結合すれば調整終了です。
ほかの調整方法におけるデメリット
候補1:
元の線がベクターレイヤーに描かれているなら、ツールプロパティのパレットで「ブラシサイズ」を調整すればいいのでは?と思われるかもしれません。
しかし、この方法だと元の絵が「異なるブラシサイズ」のペンをまじえて描かれていた場合、以下のように見かけ上の線幅が大きく変化してしまいます。
候補2:
レイヤープロパティの「フチ付け」ではどうでしょうか?
これだと元絵があまり大きくない場合、フチのサイズが最小でも太くなりすぎることがあります。また、細くすることはできません。
以下は600dpi・縦8cmの絵に、幅「1」でフチ付けした例です。このサイズで、もっとも小さい幅のフチ付けでも、かなり太くなってしまうことがわかります。
候補3:
レイヤーパレットでCtrlを押しながらクリックして、線が描かれている部分を選択し、選択範囲を拡大・縮小する…という方法も考えられます。
しかし、これも元の絵がベクター線で描かれている場合に、ラスタライズする必要が出てきます。
また「候補2」の場合でもそうですが、もともと太い線に対しても1px追加、きわめて細い線に対しても1px追加というやり方で太さを変えるため、元絵にあった線幅のバランスは損なわれてしまいます。
以上のように、他の方法にはデメリットがあります。
しかしこれらのデメリットを許容できるなら、このTIPSで主に紹介した方法よりも、操作が簡単である点はメリットです。
3D素材をLT変換した後の線画など、すべて均一なブラシサイズのペンで描かれているレイヤーなら、「候補1」の「ブラシサイズ」を一括変更する方法を使っても、問題はないと思います。
著者について
漫画版「勇者のクズ」を描いています。
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