中割りの基本

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ClipStudioOfficial

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■絵に生命を与えるアニメーション

 

アニメーションは、少しずつ変化をつけたたくさんの絵を、画面上で素早く入れ替える事で、見ている人に“動いている”と錯覚させる表現手法です。CLIP STUDIO PAINTでは、誰もが手軽にアニメーションを作ることができます。

 

しかし単純な図形を動いたように見せるだけならともかく、複雑な絵をアニメーションにするのは、何も知らない初心者には難しいでしょう。アニメ制作を始めたいなら、絵を動かすためのテクニックを知っておいたほうが、だんぜん有利です。

本講座では、プロの技術を紹介しながら、アニメ制作の基礎を解説していきます。

 

[1]ポーズトゥポーズ

アニメ制作において最もポピュラーな手法といえるのが「ポーズトゥポーズ」です。

これは動きのポイントとなる絵だけを先に描き、次いで間の絵を描き加えて動きを完成させる手法です。

 

 

 

■原画

 

ポイントになる絵を描きます。アニメの制作現場では、このような絵を「原画」といいます。

上図は動きの要所要所に原画を入れたイメージです。

 

 

 

■動画

 

原画と原画の間をつなぐように絵を描いて、動きをスムーズにします。この作業を「動画」と呼びます。

動画に関しては後述の「[3]動画とは」で、さらに詳しく解説します。

 

[2]動きの法則

アニメーション制作では、物理法則に基づいたイメージの変化を表現し、説得力のある動きを生み出す必要があります。特に動きのポイントとなる原画制作は、「動きの法則」の理解が求められる作業です。

 

この項では基本的な動きの法則を紹介していきます。動きの描写に役立ててください。

 

 

 

■フォロースルー(残し)

 

描くモチーフによって、動きの中心となる部分と、末端に位置する部分との間にタイミングのズレが生じます。このような表現をフォロースルーといいます。

例では、武器の動きが停止したあと、慣性の法則によってふさが右側に振れますが、武器に固定された根本と、先端の動きにズレが生じているように描いています。

 

アニメーションはタイミングや形状によって、質感や重量感を表現できます。フォロースルーは長い髪の毛や布などの表現に適したテクニックです。

 

 

 

■予備動作

 

ジャンプするキャラクターを描くとします。人間が飛び上がる前には、必ず一度ヒザを曲げます。そのような本動作に移る前に入る動きを予備動作といいます。

 

予備動作の理解を深めるには、まずは観察することです。大きい動き、素早い動きの前には、必ず何かしらの予備動作が入ると考え、人間のさまざまな動きを観察してみましょう。

 

 

 

■スローアウト・スローイン

 

ものが動き出すときに、徐々に加速していくことをスローアウト。その逆で、動いていたものが停止する際に、段々とスピードが落ちていくことをスローインといいます。アニメーションでは、ゆっくりと動かしたいときは絵と絵の間の距離を短く。早く動かしたいときは距離を離します。

スローアウト・スローインを効果的に描くことで、物理法則に従ったリアルな動き、緩急を極端につけたアニメらしいメリハリのある動きを表現することができます。

 

[3]動画とは

“動画”は一般的には動く映像を指す言葉ですが、アニメの制作現場では動きを表現する素材のことを指します。

 

アニメーターの作業手順では、原画は完成後にトレスされます。そして動画スタッフによってトレスされた原画と原画の間に中間の絵が描かれていきます。この“間”を割る作業を「中割り」と呼び、原画(トレス)と中割りでできた素材が“動画”です。

※従来のアナログ作業での作業分担です。今後デジタルでの作画作業の普及と同時にこのような制作工程は変わっていくでしょう。

 

[4]動画制作のポイント

動画の肝は「中割り」作業です。原画によって動きの要所は決められるので、その間に絵を描いていく中割り作業は、簡単だと思う人もいるかもしれません。

しかし、実際にやってみるとこれがなかなか厄介な作業です。何しろ最終的な動きのクオリティはこの作業によって左右されるので、少しでも手を抜くと途端に動きがガタついてしまいます。

 

ここで紹介するテクニックを参考に、少しでも正確で効率のよい作業を心がけ、なめらかな動きの表現を目指しましょう。

 

 

 

■運動曲線

 

運動曲線とは、動きの軌道を表す線のことです。原画から動きを立体的に導き出し、ポイントを決めて線を結びます。

単純に原画と原画を結ぶのではなく、それらの絵の間でどんな動きが発生しているのかをイメージすることが大事です。

 

 

 

■タップ割り

 

タップ割りとは、ふたつの原画にある絵の位置がそれぞれ離れているとき、重ねるように近づけることで、簡単に正確な中割りをしやすくする方法です。

 

<タップ割りの流れ>

 

1. 図のような二つの原画があるとします。

 

2. 二つの原画の、動きの軌道上に中割りの絵を描きます。中割りの顔は、図のあたりの位置になりそうです。

 

3. 中割りの顔の正確な位置をつかむため、運動曲線をとり、動きの中間地点を導き出します。ここではキャラクターの「あご」をポイントにして運動曲線をとっています。

 

4. 二つの原画の「あご」が、中間地点に重なるように、原画を動かします。すると二つの原画の顔が重なります。この重なった絵をもとにして中割りの顔を描きます。

 

5. 顔が描けました。タップ割りとはこのように前後の絵を重ねて描く手法です。

 

 

 

■中割りの手順

 

仮に原画と原画の間に3つの中割りを入れたい場合は、中間にある中割りから順に描いていきます。中割りの順番を見ていきましょう。

 

1. まず、図のように原画(1)と原画(5)の中間の中割りの絵(3)を描きます。

 

2. 原画(1)と中割りの絵(3)の間で中割りします。

これが中割りの絵(2)になります。

 

3. 中割りの絵(3)と原画(5)の間で中割りします。

これが中割りの絵(4)になります。

 

4. 中割り完了です。

 

最後に

アニメーターは漫画家やイラストレーターのような「絵を描く仕事」です。しかし、漫画家のようにストーリーを考える事はありませんし、イラストレーターのようにデザインから彩色までの制作を一人で行うわけでもありません。

アニメーターが「考え」「デザイン」するのは時間です。このポーズの次にどんなポーズへ繋げるのか。間に何枚の絵を入れるのがベストか。どのくらい間隔を詰めるか。動きの間に何コマの間を設けるか。そういったことを1ミリ単位、または1/24秒という単位で作業しています。

しかしながら、“ものを動かしたい”という原始的な欲求や楽しさにプロとアマチュアの垣根はありません。そしてデジタルツールは鉛筆や絵の具といった画材以上にこれからのアニメーションの可能性を広げてくれることでしょう。

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