スモールエス「CLIP STUDIO PAINT」をはじめよう!第3回
デジタルイラストを描く『スモールエス』投稿者さんに聞く、デジタルイラストの便利さ・楽しさ
このシリーズでは、まだ本格的にパソコンなどで絵を描いていない人に向けて、デジタルイラストの便利さ、楽しさを紹介していきます。
絵を描きはじめた段階では、使い慣れている紙に鉛筆で描くことが多いと思いますが、デジタルイラストに興味を持っている人も多いことでしょう。
ただ、パソコンを使うとき、操作が難しいのでは…という心配もあるものです。
そこで初心者でも使いやすく、難しい機能を覚えなくても、便利に楽しく絵が描けるように、イラストソフト「CLIP STUDIO PAINT」の基本を紹介します。
「CLIP STUDIO PAINT」は、「スモールエス」の投稿者さんやプロのイラストレーターさんも使っています。
また、パソコンと同じように使えるiPad版もリリースされました!
実際に使ってみると、アナログで難しいと思っていた作業が簡単にできるという利点もあり、知っておくと便利なことがたくさんあります。
デジタル初心者の方にも参加してもらいながら、デジタルイラストを楽しみながら描けるコツをご紹介します!
第3回目ナビゲーター[紅木春さん&萩原あろさん]
紅木春(あかぎしゅん)/現在CLIP STUDIO PAINTをメインに作品を制作中。
第9回「ペンタブレットdeアート投稿コンテスト」グランプリ受賞。
書籍の表紙やソーシャルゲームのイラストを手掛ける。
高校生へのイラスト指導なども行っている。
主にコミティアで活動中。
萩原あろ(はぎわらあろ)/アナログ画材ではコピックや水彩、つけペンを主に使用。
デジタルはSAIを使いつつCLIP STUDIO PAINTEXでイラストと漫画に挑戦中。
今春からイラスト・漫画系専門学校へ進学した。
3回目より、デジタル作画を強化したい萩原あろさんと、イラストの仕事をされている紅木春さんの二人がナビゲーターを務めます。
紅木春さんが萩原あろさんにデジタル作画でのコツやポイントをサポートします。
紅木さんには、萩原あろさんへのアドバイスと同時に、普段通りの自分の描き方も披露していただきますので、二人のメイキングを見ながら、CLIP STUDIO PAINTを学んでいきましょう。
「CLIP STUDIO PAINT」の機能を取り入れてデジタル作画の利点を活かそう
■自分好みのブラシを作ろう![サブツール詳細]
主な描画ツールの[ツールプロパティ]パレットの右下にある工具アイコンをクリックすると[サブツール詳細]パレットが表示される。
紅木/大変重宝しているのが、直線や曲線、長方形などのブラシ形状を変えられる機能です。
質感のあるブラシで人物を描くとき、背景や小物に使う直線の質感が人物と異なると絵と馴染まないので、変えられるのが嬉しいです。
濃度なども細かく設定できる、CLIP STUDIO PAINTならではと感じる機能です。
■色に迷ったら使おう![色相・彩度・明度]
紅木/レイヤーごとに不透明度や合成モード、[色相・彩度・明度]などを調整することが可能です。
配色で気に入らない部分の色も、あとから簡単に変更できますし、レイヤーを複製すれば別の配色パターンもすぐに作れて、比較をしやすいですよ。
■消しゴムよりも絵に馴染む[透明色]
紅木/いくつか描画ソフトを使ってきたなかで、CLIP STUDIOPAINTの特長に[透明色]があります。
通常のソフトは[メインカラー]と[サブカラー]しかありませんが、[透明色]も選べるようになっているんです。
消しゴムのように色を落としたり、薄めたりすることができるのですが、大きく違うのは、ツールを切り替える必要がないことです。
より自然な濃淡をつけることができます。
■知っていると効率アップ![ショートカット]
Ctrl+T:[編集]メニュー→[変形]→[拡大・縮小・回転]
Ctrl+Shift+T:[編集]メニュー→[変形]→[自由変形]
紅木/上記の2種はラフの工程でよく使っています。体のバランスや小物の大きさなどの調整をしています。
Ctrl+U:[編集]メニュー→[色調補正]→[色相・彩度・明度]
メイキングでも頻繁に出ますが、工程全体で使用しています。
<ペンタブレットをカスタムしてさらに効率アップ!>
私は[スポイト]を使う頻度が高いので、ペンタブレットのペンの下スイッチに、[スポイト]ツールへの一時切り替えの修飾キー[Alt]を設定しています。
▼ペンタブレットの設定画面から指定できます
CLIP STUDIO PAINT のおすすめポイント
紅木/私は長くCLIP STUDIO PAINTを使っていたのではなく、パソコンを買い替えるタイミングで移行したんです。
元々、Windowsを使っていた頃は SAI + Photoshop CS6を使っていました。
作業環境をMacintoshに変えたのと同時に、CLIP STUDIO PAINT + Photoshop CS6になりました。
CLIP STUDIO PAINTは、WindowsとMacintosh、両方に対応しているのが嬉しいところです。
現在私が使用しているのはCLIP STUDIO PAINT PROのダウンロード版なのですが、5000円という価格とは思えないほど機能が豊富で、コスパも素晴らしいです。
あろ/私はアナログでも絵を描いていますが、一番はじめはデジタルでした。
小学校のときに憧れの作家さんがSAIを使っていたので描きはじめて。
当時は他にどんな描画ソフトがあるのか知らずに使っていました。
現在はCLIP STUDIO PAINT EXを毎月、バリュー版で使っています。
※バリュー版…月500円で50ヶ月か、月1000円で24ヶ月支払うことで契約満了となり、その後は無期限で使用可能になる。
EXを選んだのは、より漫画制作に向いている機能があるからです。
<良いと感じた具体例>
・他のソフトと比較して、線が描きやすい
・ブラシや素材のカスタマイズが可能
・簡単にトーン化することが可能
・図形ツールやパース定規など、イラスト・マンガに特化したツールが多い
・左右反転表示がある
・透明色がある
・psdファイルでの保存が可能なので、仕事でも使える
・安価だがイラスト・マンガどちらも本格的に描画可能
紅木さんに聞く衣装デザインのポイント
今号は衣装の描き方について紹介していきます!
あろ/今回の衣装は、和をよく描かれる紅木さんの作品を意識して考えてみました。
和の要素を持つファンタジー感を出したかったので、短い袴とインナー風の上着で動きやすい格好にしています。
描き方で気になったのは、袴です。
長い袴は部活で身につけていたのでわかるのですが、袴が短くなるとどう見えるのか、描き方に迷いました。
紅木/あろさんのデザインは、体のラインが出る部分とふわっとした部分のバランスが良いなと思いました。
紅木/短い袴は、普通のスカートをベースにすると描きやすいかもしれません。
このイラストは、スカート状の袴の丈が短くなったイメージで描きました。
ヒダの数を袴に合わせつつ、シルエットやボリューム感はセーラー服のプリーツスカートに寄せています。
袴では前後を縛るのですが、そこは割愛して、ホックにしました。
袴の名残で脇を開けて要素をミックスしています。
カゲをつける場所を意識してみよう
あろ/コピックで彩色したイラストです。光源はあまり考えていなくて、塗りながら決めています。線画を描くのは楽しいのですが、衣装を塗るのが苦手で…。
理想の塗りは藤原ここあ先生のシャープだけどやわらかい塗りなのですが、パキッとしたカゲはごまかしがきかないので、全体的にぼかしてしまいます。
紅木/今回描くイラストの、カゲだけの状態です。いつもと違う作画方法なのですが、このように服を白い状態にしてカゲを置きました。なぜかというと、服やアイテムに濃い青を選んだので、その色に惑わされそうだったからです。
デジタルの場合は服とカゲのレイヤーを分けられるので、明暗や塗りたいタッチに意識を絞って描いてみるのも一つの方法です。
紅木/私がいつも塗るカゲをあろさんの絵に置いてみます。ザックリですが説明用ということで…。
光源を最低限だけ、イメージだけ決めます。
そして、優先度の高い「立体構造としてのカゲ」から塗っていきます。
そのあとで、「シワのカゲ」→「ザラザラしたものやディテール」というような順で細かく捉えていきます。
例外もありますが、私のなかでは、全体の立体感の方が大事なんです。
例えば、白いシャツを描くときに、いきなりシワばかりを描くと違和感が出ると感じていて。
そでの内側や女性の場合は胸の下に入るカゲなど、私の場合は、必ず入るカゲから塗っていきます。
あろさんの衣装の彩色
■CLIP STUDIO PAINTの機能と紅木さんのポイントを元に塗ってみましょう
①私はまずパーツの色を決めながらベタ塗りしていきます。塗りつぶしツールを使ってどんどん塗ります。
②バケツツールだけだと、細かい部分が塗りつぶせないので、白く残ったところはサインペンで塗りました。
③紅木/色に迷ったときは仮で塗ってみて、[色相・彩度・明度]を使用して自分が良いと思う色を探すのがオススメです。
【POINT】[下のレイヤーでクリッピング]
クリッピングを入れないと色がはみ出してしまう。
クリッピンクを入れると、下のレイヤーのベタ塗りした部分から色が出ない。
④紅木/衣装の赤色に引っ張られないよう、カゲと光だけを意識してみるのはいかがでしょうか。その場合は、色レイヤーを非表示にして、モノトーンで明暗をつけていきます。
⑤紅木/衣装が複雑になると、カゲをつける場所が難しくなってきます。
はじめはディテールを追わずに「カゲが落ちる場所」を優先して、仮色で構わないので置いてみましょう。
⑥紅木さんの作例を見ながら、フチを部分的にぼかしてみました。
塗りと同じ[透明水彩]ですが、透明色を使っています。
カゲを思いきり大きく入れられて新鮮です。
⑦紅木/ある程度カゲがついたら色レイヤーを表示します。
表示された状態でカゲ色を[色相・彩度・明度]を使ってカゲ色を調整しましょう。
また、レイヤーの不透明度でも好みの濃度に調整します。
⑧[透明ピクセルをロック]にチェックを入れてカゲ色だけに色をつけてみます。
端を水色にしたり、紫を入れると遠近感が出たと感じられて、とても驚きました。
⑨衣装全体にカゲを入れた状態です。カゲのみを表示するとこのような塗りになりました。
パキッとさせるところを残したり、ぼかしを入れたり、色を加えています。
マントの濃くなるカゲ部分は青みを強めました。
⑩衣装以外も彩色して、最後に[覆い焼き(発光)]でハイライトを入れました。
▼カゲだけの状態よりも、ハイライトを入れることで立体感がより強調されている。
カゲの彩色まで終えた状態。
次回は仕上げや加工をこのイラストで引き続き行っていきます。
■描いてみた感想
収録を通して、私もCLIP STUDIO PAINTが使える気がしてきました!
機能がたくさんあって慣れるのに時間がかかりそうですが、少しずつ使っていけるようになれたらな…と思います。
また、カゲのつけ方は、漫画のベタやトーンなどにも使えることなので、すごくタメになりました。
色々なカゲのつけ方があるのだと学べたので、さっそく参考にしていこうと思っています。
次回は苦手なテクスチャや加工について知れるので、そちらも楽しみです。
紅木さんのラフからカゲつけまでの工程
①ラフです。
最初に人物の素体を描き、その上から衣装を着せます。
蝶や服装の細かい部分はあとから描き足していきます。
②普段は落ち着いている雰囲気の絵が多いので、配色も含めて今回は活発で元気な、夏らしいイメージにしようと思いました。
③線画はラフを不透明度10%~15%で敷いて新規レイヤーに描きます。
ブラシサイズは15~30px、キャンバスはA3サイズです。
④背景、人物、蝶の3つに大きく塗り分けてから、細かいパーツごとに塗り分けます。
[色相・明度・彩度]を使って色調整します。
⑤さらにパーツを分けた状態です。
「ここは後で変更するかもしれない…」と思った部分は必ず別のレイヤーにして、あとから簡単に変更ができるようにしています。
<配色について>
今回は「黄色・白・青・オレンジ」の4色をベースに配色しました。
今回のイラストは色数がそんなに多くありませんが、たくさんの色を使うイラストの場合は、『同系色にする』もしくは『彩度の高い部分を厳選する』と、画面全体がまとまりやすい気がします。
⑥カゲを塗ります。
工程⑤のレイヤーの上に白く塗ったレイヤーを置き、カゲ色だけ見える状態にして、肌はオレンジ、靴は紫色など、部分ごとに色を変えて彩色していきます。
<カゲ色に集中して塗る>
今回は濃い青に惑わされないように、色を表示せずにカゲをつけました。
彩色後に工程⑤のレイヤーを表示して色を調整しています。
[丸ペン]を使用したのは、パキッとアニメ塗りのようにするためです。
夏がテーマなので、強い日差しを感じられる、くっきりとしたカゲにしました。
工程⑤の色分けしたレイヤーと⑥のカゲを重ねた状態です。
これで主な彩色は終わりました。
次回、質感やテクスチャを乗せていきます。
以下の図は紅木さんの作業レイヤーの一部。
カゲを[焼き込み(リニア)]で重ねている。
レイヤーが細かく分けられているが、レイヤーに名前をつけて、さらにレイヤーフォルダーにまとめると、レイヤー数が多くても管理しやすい。
これからデジタルイラストを描く方へ
紅木/デジタルは多様なツールや機能がありますが、全ての機能を使いこなす必要はないと思っています。私も、自分が使う機能以外はあまり詳しくありません。
描くために必要な最低限の機能だけならば、意外と少ない気がします。なので、はじめは自分が使う機能だけをおぼえて、必要に応じて徐々に新しい機能をおぼえていけばよいと思います。
特にアナログで絵を描いている人ならば、似たような行程はデジタルともリンクさせることができるのでは、と思います。(描き味やブラシの名称、アイコンのマークが似ていたりするので…)
もしも、今デジタルイラストに興味を持っているようでしたら、どんな画材も慣れだと思うので、まずは気楽に触るところからはじめてみても良いかもしれませんよ。
次回は仕上げや効果をつける工程のポイントを紹介します! お楽しみに!
SS スモールエスとは
2005年に創刊されたイラスト雑誌。「メイキング&投稿マガジン」というキャッチコピーの通り、イラストの描き方の取材記事と、投稿イラストの掲載によって誌面がつくられている。デジタルとアナログの両方のイラストが楽しめる内容。Webから作品が投稿できる。
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